「小学校の算数に塾講師を活用し学力向上を検証」の報道を受け、千葉県教育委員会と話し合い、分かったこと・考えたこと

「小学校の算数 塾講師活用で学力向上 検証/千葉県」の報道を受け、多くの教育関係者から多数のご意見をいただきました。私自身、千葉県議会文教常任委員会の委員でもあり、千葉県教育委員会に確認いたしました。現状での内容をここに共有いたします。
ぜひ、ご意見・ご感想をお聞かせください。

 

 

 

 

【1 報道とその反響】
千葉県の民間人材(塾講師)による専科指導研究事業の導入校の一つである流山市立江戸川台小学校の授業が、2023年11月27日に報道陣に公開され、報道されたものです。
チバテレ「小学校の算数 塾講師活用で学力向上 検証/千葉県」の放送

これを受けて、以下のようなご意見をいただきました。
•ワックスがけ、フィルター掃除、プール清掃、プールの水管理、タブレット管理、会計処理、校内点検、草刈り、アンケートなどはアウトソーシングしてほしいが、授業は奪わないでほしい。
•多忙化で教員から授業準備の時間を奪った上で、学力低下を教員のせいにして、塾講師を代わりに教室に招くのはおかしい。
•そのうち、大手予備校のようなカリスマ教師のビデオ授業にとってかわられるのでは。

一方で、保護者などからは、塾講師に授業を教えてもらえるのはありがたい、ちゃんと算数を教えられていない教員もいる、そんな声も聞こえてきました。

【2 「小学校の算数 塾講師活用で学力向上」、実際の内容】
◾️報道された取り組みは、千葉県の民間人材(塾講師)による専科指導研究事業です。

◾️その趣旨は、小学校算数科の専科指導に外部人材として塾講師を活用し、児童の学力向上への効果を検証するととも に、塾講師の指導力の状況や外部人材の導入上の課題等を調査研究するものです。
授業をビデオ撮影し、 児童などにもインタビューやアンケート調査を実施します。

◾️流山市、佐倉市、市原市の公立小学校に、民間の進学塾の講師が1名ずつ配置され、1学期(6、7月)と2学期(11、12月)にそれぞれ20日間程度、小学5年生の算数を教えます。
※この自治体の選定は、応募したものではなく、千葉県教育委員会から依頼したとのことです。

◾️プロポーザル方式(企画競争入札)により、株式会社市進ホールディングスに決定。応募は1件でした。
今年(令和5年)2月に情報が公開され、説明会などを経て今年3月に決定しました。
業務の委託期間 契約締結日から令和6年2月29日まで。

◾️業務の委託金額 5,050千円以内(消費税及び地方消費税込)

「民間人材(塾講師)による専科指導研究事業」業務委託に係る 企画提案募集要項

【3 千葉大学と提携し、小学校の教員に対する調査も実施】
報道されていない内容として、千葉大学と提携し、小学校の教員の授業についても、授業をビデオ撮影し、 児童などにもインタビューやアンケート調査を実施します。
こちらの学校は非公表です。

塾講師と比較し、塾講師の授業から取り入れるべき点をまとめながら、学校の教員ならではの優れた部分も検証していきたいとの、千葉県教育委員会の思いをお聞きしました。

【4 今後の行方】
学校の意義、教員の存在価値を問い直す時期にさしかかっています。
今回の実証実験は、今後の方向性を左右するものではないかという懸念もあります。

◾️民営化の懸念
教員不足が深刻です。いま、学校では担任の先生が長期お休みし、代理の先生が補充されず、教頭先生や他の先生が交代で対応され、さらに多忙となり、教員の成り手が減るという悪循環。一人ひとりの児童生徒に目が行き届かず、子どもたちの影響も深刻です。そんな状況の中で、弥縫策として、塾講師に頼るのは仕方ないとなりかねません。
教育関係者からは、否定的な意見をいただく一方で、保護者の方からは、評価する声もお聞きしました。

公設民営学校、教育バウチャー制度、学校選択制、ICT教育、正規教員の削減、標準•スタンダードと説明責任•アカウンタビリティ、学力テストとテスト対策、地方教育行政での首長の権限強化など、アメリカの新自由主義改革の流れと重なる部分もあるとのご指摘も。
※9年前の記事です。その後、鈴木大裕さんは『崩壊するアメリカの公教育-日本への警告』(岩波書店)を出版されました。

市場化する教育改革への警鐘

◾️授業スタイルと学力観の逆行
学力とは何か?
その考え方が変わってきました。
AIの時代、知識を多く身につけ、早く正確に処理する学力から、
深く考えたり、他者との相互理解を深め、諦めずに取り組み続けるなど多様な力が求められるようになりました。
授業は、画一的な一斉授業から、対話し、探究を深める学びに移行しようとしています。タブレットなども配布されたこともあり、知識を習得するためには、一人ひとりに合わせた個別最適化の学習が進められています。

そんな中で、報道では、一斉授業のスタイルで実施され、従来の学力テストでの成果が期待できるような説明やコメントが紹介されています。算数というのも気になるとこっろです。
千葉県の教育は、今後どのように考えているのか、千葉県議会で問い質していきます。

◾️教員免許状の緩和
本事業の仕様書に、「塾講師が教員免許状を有していない場合は、特別免許状交付申請を行うことができる」とあります。
こうした特別免許状交付が緩和されていくことにもつながるのではないかと懸念しています。

 

ぜひ、皆様からのご意見をお待ちしています。

追記 2023/12/13
【速報】千葉県公立小学校での塾講師を活用した算数授業の実証実験について、千葉県議会・文教常任委員会での議論を紹介します。 公立小学校の算数授業で、塾講師を活用し、学力向上をさせようという検証について、昨日(2023/12/12)に開かれた千葉県議会文教常任委員会で、野田宏規議員と私・山下洋輔が取り上げ、議論しました。 その文字起こし内容を共有いたします。

【速報】千葉県公立小学校での塾講師を活用した算数授業の実証実験について、千葉県議会での議論を紹介

※参考

「民間人材(塾講師)による専科指導研究事業」 業務委託仕様書
1 委託事業名
民間人材(塾講師)による専科指導研究事業

2 目的
小学校算数科の専科指導における外部人材として塾や予備校等の講師(以下、塾講 師という。)を活用し、児童の学力向上への効果を検証するとともに、塾講師の指導力 の状況や外部人材の導入上の課題等を調査研究する。

3 委託期間
契約締結日から令和6年2月29日まで

4 委託内容
(1)授業を実施する講師の選定・配置
ア 選定の要件
・塾講師は、単独で指導する(担任は生徒指導面での対応・補助のみとする。)こ とから、教員免許状を有することが望ましい。
・塾講師が教員免許状を有していない場合は、特別免許状交付申請を行うことができるので、3月24日(金)までに学習指導課に相談すること。
・企画提案書提出の際、担当講師が作成した学習指導案を添付する。
・勤務成績良好で学習指導に優れており、生徒指導面、教員とのコミュニケーショ ン能力にも優れた人物を、受託者が推薦すること。
・受託者は、担当講師の指導の状況を確認するため、管理職等による視察を適宜行うこと。
・受託者は、担当講師の資質向上に向けた研修を適宜行うこと。
・担当講師に事故等があった場合、同水準の講師を補充することができるよう、予め補欠講師(1名程度)を選定しておくこと。
イ 配置の要件
・小学校5学年の算数科の指導に、塾講師を配置する(全3校)。
・塾講師は、以下の3校に1名ずつ配置する。 流山市、佐倉市、市原市の公立小学校 ・指導対象児童の中に、配置する塾講師が塾で担当する者がいないよう配慮する。
・期間は、1学期(6~7月)、2学期(11~12月)にそれぞれ20日間程 度、また、児童との関係構築のための期間(1学期授業開始前に10時間程度) を含め、年間50日程度とする。なお、詳細は学校及び委託者と協議の上決定す る。
・勤務は週5日とし、1日2~3学級(5年生全学級)を指導する。また、授業以外の時間は、教材研究・教材作成等に充てる。
・服務については、学校設置市町村や勤務校の規則に従うものとする。

(2)塾講師による授業の実施
・学習指導要領の趣旨を踏まえ、配置される学校で使用している教科書に基づいて 授業を行う。
・授業は塾講師単独で行うこととする。
・指導する内容(単元)は、以下のとおりとする。
小数のわり算、合同な図形、単位量当たりの大きさ、分数のわり算、割合 ・授業の実施に当たっては、当該校の年間指導計画に基づき、指導計画の立案及び 教材の作成を行う。
・授業のほか、単元導入でのレディネスチェック用テスト、家庭学習用教材、単元 末の評価テストの作成及び実施、採点等も行う。

(3)事業実施に当たっての管理体制の構築
・授業を担当する講師3名の他、統括管理者1名を置くこととする。
・統括管理者は、本事業全体を統括する立場として、講師の服務の監督及び勤務の調 整、授業の進捗状況の把握と調整等、事業の運営面の管理を行う。

(4)実施終了後の実績報告書の提出
・本事業終了後、所定の様式により、実績報告書を令和6年2月29日(金)までに 委託者に提出する。

5 実施に当たっての確認事項
・本事業に関する調査のために実施した各種テスト等、児童の学力に関する情報については、委託者に帰属する。
・本事業の効果検証を行うため、委託者が第三者機関に評価を依頼し、評価テスト結果 の分析及び授業の録画、授業観察等を行うこととする。受託者である塾は、本検証に 協力すること。

6 事業の適正な実施に関する事項
(1)受託者は、業務を行うに当たり、関係法令等を遵守すること。
(2)受託者は、業務遂行に当たり、事業の実施体制を整備するとともに、その内容、費 用、スケジュール、実施場所について、委託者と協議・調整を行うこと。
(3)受託者は、受託者が行う業務を一括して第三者に再委託、又は請け負わせることが できない。ただし、業務を効率的に行う上で必要と認められる場合、委託者と協議の 上、業務の一部を再委託することができる。
(4)受託者及び本事業に関わる者は、職務上知り得た秘密を漏らしてはならない。ま た、本業務終了後も同様とする。
(5)受託者は、本事業を通じて取り扱う個人情報については、個人情報の保護に関する 法律(平成15年号外法律第57号)に基づき、適正に取り扱うこと。
(6)受託者は、本仕様書に定めるもののほか、疑義が生じた場合はその都度委託者と協 議して決定する。
(7)受託者の委託業務の実施による進捗が本事業の趣旨と離れている場合は、本事業の 中止も含め、今後の実施について委託者と協議することとする。

7 その他
(1)前項までの条件が満たされない場合、一部の事業費を対象の経費と認めず減額等と する場合がある。
(2)業務内容を遂行する上で必要な技術支援の研修は、事前に受託者が責任を持って行 うこと。
(3)業務で使用する PC 機器・ネットワーク環境等は受注者が準備すること。 (4)業務に係る交通費・出張費等は受託者の負担とすること。
(5)本仕様書に定めのない事項及びこの仕様書に関して疑義が生じた場合については、 委託者と受託者が協議して決定するものとする。

投稿者:

山下 洋輔

千葉県議会議員(柏市選出)。 元高校教諭。理想の学校を設立したいと大学院に進学。教員経験、教育学研究や地域活動から、教育は、学校だけの課題ではなく、家庭・地域・社会と学校が支え合うべきものと考え、「教育のまち」を目指し活動。著書『地域の力を引き出す学びの方程式』 2011年から柏市議会議員を3期10年を経て、柏市長選に挑戦(43,834票)。落選後の2年間、シリコンバレーのベンチャー企業Fractaの政策企画部長として公民連携によってAIで水道管を救う仕事を経験。 柏まちなかカレッジ学長/(社)305Basketball監事。 千葉県立東葛飾高校卒業。早稲田大学教育学部卒。 早稲田大学大学院教育学研究科修士課程修了後、土浦日大高校にて高校教諭。早稲田大学教育学研究科後期博士課程単位取得後退学。 家族 妻、長男(2014年生まれ)、長女(2017年生まれ)