【本書の内容】
アントネッラ•アンニョリ著・萱野有美訳『拝啓 市長さま、こんな図書館をつくりましょう』(みすず書房)を読んだ。
これまでの「図書館」という考えを柔軟にしなければならない。
「知の広場」とカッコつけるのではなく、幅広い人たちにも利用してもらえるために、様々な努力と工夫が必要で、具体例が示されていた。
履歴書の書き方や語学、インターネット教室などの就労支援。不登校、引きこもり、失業、高齢者の独居など、社的な孤立を防ぐ居場所づくり。ゲームやワークショップ、カフェ、映画など、利用者目線で、サービスを提供する。子育て支援センター、地域のサービスセンター、生涯学習センター、市民活動の核、都市計画の要として、図書館の社会的な役割が示されている。
道路や水道と同じように、図書館は都市計画の重要な要素である。様々な可能性が示されている本だった。
本書は、①市長への政策提言、②理想の図書館(実践経験と先進事例の紹介)、③0歳から13歳の子どものための図書館についての3冊を、日本の読者向けに編集したものである。
【民主主義を支える図書館】
新自由主義とグローバル化が進展し、経済格差の拡大と社会•文化の分断が進む。誰もが安心して過ごせる居場所を提供し、居場所を失った人々がその状況から抜け出すための学習の機会を保障するのが図書館の役割だ。
図書館は、民主主義の基盤なのだ。
私が教員ではなく、議員としてやらなければならないことは、まさに、学校だけではない教育環境を整えることである。図書館政策は、私の議員活動の核となるものであると再確認できた。なぜ、図書館が必要かの説明も明確になった。
【子どもの図書館】
子どものための図書館についても考えることが沢山あった。
小学生が利用しやすい図書館を整備することは、子どもの居場所作りとなる。子どもが安心して過ごせる場所はなくなってきている。
「小1の壁」が騒がれ、学童保育の整備が課題である。小学生を預かる学童保育では、夜間の延長保育がある保育園よりも預かり時間が短くなる。子どもが小学生になると時短勤務制がなくなる企業もあることから、子どもの小学校入学を機に仕事を辞めたり、働き方を変えたりせざるを得ない親も多く、社会問題化している。
柏市なら、図書館分館を子どもの目線でリニューアルし、地域で子どもを見守ることができるシステムを作れないだろうか?
【柏市中央図書館の現状】
秋山市長は新図書館建設など大規模開発中止を主張し、初当選を果たした。しかし、今なお、新図書館を求める市民の声は根強い。
現在、柏市中央図書館は、施設の老朽化に耐えながら、その役割を担っている。図書館の仕事が多様化し、多忙化する一方で、図書館の予算は減らされている。サービスの低下と施設の老朽化により、図書館の魅力は薄れ、市民の不満は募る。
議会でも議論を繰り広げてきた。同時に、より良い図書館を求める機運を盛り上げていこうと、自分たちでも図書館に関する活動を始めた。
【柏まちなかカレッジ図書館の試み】
最近になって、再び、ブックトーク、まちライブラリー、青空図書館、ブックシェア、朗読会、読書会、ビブリオバトル、ブッククロッシング、一箱古本市など、本にまつわるイベントに関心が高まってきていると感じる。 校舎も教室も、黒板もなく、まちが教室である「柏まちなかカレッジ」が、柏のまちなかを図書館として楽しみ、本を通して、人と人、人と街とをつないでいくことはできないだろうかと考え、「柏まちカレ図書館」を企画している。
柏まちカレ図書館とは、特定の建物や蔵書を所有せず、まち全体を図書館と見立てる。まちにある本が蔵書。柏のまちには、本棚のある素敵なお店がある。
まちの人が、図書館の運営者であり、司書であり、利用者。
本だけではなく、知恵や経験、人とのつながりも貸し出す仕組みを作る。課題解決型図書館として、情報・知恵・交流のハブとなる拠点や場を作っていきたい。
「地域通貨」を活用し、柏のまちにある知恵、経験、力、モノなどの地域資源を洗い出し、それらを交換できるマルシェ・市などを開催していきたい。
地域通貨の通帳で、貸し借りのやり取りを記入する。本の貸し借りや人との交流が記録される。
※地域通貨-地域資源を発掘し、つなげる仕組み
【活動から見えてきたこと】
図書館への要望は多様だが、全国的に図書館の争点は共通している。
蔵書、建物・空間、居場所、アーカイブス、秩序、配列、利便性、プライバシーなどなど。沢山の網羅された蔵書、快適な空間、ほしい情報を入手できること、交通アクセスや開館時間延長などの便利さなどが求められる。
一般の図書館ができないことで、柏まちカレ図書館だからこそできることを考えてみた。
・本が秩序だってないからこそ、思いもよらぬ出会いがある。
・プライバシーの問題でなくなった読書カードを活用し、その本を手にしてきた人々の思いを、次の借り手につないでいく。
・不便だからこそ、コミュニケーションが生まれる。
そういった柏まちカレ図書館を設計している。既存の図書館を批判する会ではなく、まちなかカレッジだからこそできる常識を覆すような、オープンで、つながる図書館を、みんなで作っていきたい。
そして、柏まちカレ図書館の活動を通して、柏市の公共図書館としての役割を明確にし、議会からも提案していきたい。
柏まちなかカレッジ学長 山下 洋輔