【子どもの貧困】
子どもの居場所を整えていくことは、私たち大人の役割であり、社会の責任だと考えている。
貧困の連鎖と教育格差が広がっている。6人に1人の子どもが、 生活保護を受けている、もしくは、ワーキングプアの家庭で育っているという。 地域の子どもを、地域が見守り、暮らしや学びを有機的に支えるネットワークを作っていかなければならない。
「昔はもっと貧しかった」とおっしゃる方もいる。しかし、現在の貧困は、見た目だけではわかりにくい。そのことも、問題を難しくしている。
OECDによると、日本の子どもの相対的貧困率はOECD加盟国34か国中10番目に高い。OECD平均を上回っている(2014)。ひとり親家庭など大人が1人で養育している世帯の相対的貧困率はOECD加盟国中、最悪である。
教育格差、児童虐待、貧困の連鎖、自殺と、この社会の基礎を揺るがす問題である。
【子ども食堂とは】
今、「子ども食堂」が注目されている。
コンビニ弁当や菓子パン、お菓子だけで毎日の食事を済ます。一人で食事をとらざるを得ない孤食。家計が苦しく食事を抜く。心と体の成長の土台である「食」が揺らいでいる。
様々な生きづらさを抱えた子どもたちを、手作りの温かな食事で支えたい。無料や300円くらいの価格で、栄養満点の食事を提供したい。子どもが一人でも入ることができ、共に食べる喜びを味わってほしい。そんな「子ども食堂」の試みが各地に広がり始めている。
ボランティアの方々で運営されている「子ども食堂」がほとんどである。調理器具を譲ってもらったり、場所を無料で貸してもらったり、材料は農園から野菜を分けてもらったりしながら成り立っている。全国からお米やお金の寄付も集まっているという。
まだ食べられるのに、様々な理由で処分されてしまう食品を、食べ物に困っている施設や人に届けているフードバンクと提携している「子ども食堂」もある。
【子どもの学力も支援】
子どもの貧困は、学力の格差も生む。学力は、個人や学校の努力だけで成り立つものではない。家庭環境や地域の教育環境、社会経済にも左右される。育った環境によって受けられる教育に差があるという現実を、元校長先生や保護司の方とお話ししていて思う。
学力格差に影響を与えているのは、経済格差や地域格差だけではなく、子どもと親・教師・地域等とのつながり具合である、と教育学者の志水宏吉氏は『「つながり格差」が学力格差を生む』で指摘されている。親の経済力や学歴の格差が学力格差につながる一方で、「つながり(社会関係資本)」が強いほど学力も高いと実証されている。
教育格差が拡大している今、教育機会を保障する公教育と学校の役割は、重要である。多くの自治体では、学習塾などと提携し、生活困窮世帯の子どもたち向けに、学習支援を提供している。
ただ、子どもと社会とのつながりをサポートすると考えると、学校だけではなく、地域コミュニティが子どもたちを支えていく仕組みが有効となる。子どもたちの学習だけでなく、地域の大人たちと出会える寺子屋のような取り組みが注目されている。
子ども食堂が、この寺子屋と一緒に取り組まれることによって、大きな力を発揮する。
【子どもの安全】
先日、柏駅前の飲食店から「こども110番の家」に協力したいというお話を頂いた。「子ども110番の家」は、子どもたちが危険に遭遇したり、困りごとがあるときに安心して立ち寄れる民間協力の拠点として、子どもたちを見守っていく活動である。
お店は、個人宅に比べて入りやすいことや、柏駅前は戸建ての家が少ないので、「こども110番の家」に適している。「いざ」という時に、見知らぬ家に飛び込んでいくことは難しいという課題がある。声掛けなど、子どもとの接点を増やし、日ごろから顔の見える関係であることが必要とされている。
柏駅周辺には飲食店が多い。飲食店の協力を頂き、子ども食堂が開催できれば、子どもを見守る地域づくりにもつながるのではないだろうか。
【地域のためにもなる】
高齢者施設で、子ども食堂を実施している事例もある。高齢者と子どもの異世代交流により、互いに心身両面に良い影響を与える効果も期待されるそうだ。
高齢者、障がいのある方、子どもに対して同一施設内で福祉サービスの提供を行う富山型デイサービス」が注目されている。子ども食堂は、世代や障がい、貧富の差を越えた多様なつながりの拠点となり得る。そして、縦割り行政を打破するきっかけにもなる。
柏では、誰かと同じものを分け合って一緒に食べる大切さを伝える「おなかま食育プロジェクト」の活動なども行われている。飲食店や生産者、企業や市民団体などが力を合わせて取り組まれている。
子どものための取り組みが、子どものためだけではなく、地域のつながりを生む。バラバラになりつつあった地域コミュニティを結びなおし、防犯・防災の備えとなり、高齢化社会のための活動にもつながる。
そして何より、子どものための取り組みは、未来を創っていくのである。
柏まちなかカレッジ学長 山下 洋輔