以下、『BE-COM 6月号 vol.224』 (2011.6.1 BE・COMときわ通信発行)に掲載より引用
【教育立市宣言】
大阪府河内長野市では、平成22年3月の議会で、「教育立市宣言」が全会一致で採択された。教育は「国家百年の計」と言われる。この実現には、市にも大きな責任がある、と市長は語っている。今後は、子どもから高齢者まで、ライフステージに応じて、市民が生涯にわたり教育を受ける機会を拡大するとともに、「教育立市」にかかわる施策を具体的に進めていくという。
具体的な内容は、以下である。
1「私たちは、未来の宝として、学ぶ意欲に富み、心やさしくたくましい子どもたちを育てます」、2「私たちは、人を大切にする人権感覚豊かな子どもたちを育てます」、3「私たちは、家庭の力、地域の力、学校の力など、市民の力のつながりを大切にし、市の未来を担う人となります」、4「私たちは、わがまち河内長野の伝統や文化を大切にし、ふるさとや地域を愛する市民となります」、5「私たちは、豊かな学びの場のもとに、生涯にわたって学び続け、自らの人生を充実させるとともに、学びの成果を活かして社会に貢献します」。
コミュニティ・スクールも試験的に発足させるという。コミュニティ・スクールとは、保護者や地域の声を学校運営に直接反映させ、保護者・地域・学校・教育委員会が一体となって、より良い学校を作り上げていくことを目指すものである。その他、市立図書館の夜間開館の実施や小・中学校普通教室に電子黒板等を整備など、全国でもトップレベルの教育環境を実現するための取り組みが始まっている。
【「つながり」と「ふるさと」の意識】
この「教育立市宣言」の要点は、「つながり」と「ふるさと」の意識と考えられる。
教育や子育てにとって、人、そして、人のつながりは重要である。学校、家庭、地域を左右するのは、人であるからだ。震災後、「つながり」や「コミュニティ」の大切さが、強く認識されるようになった。人と人との豊かなつながりをセッティングすることは、知識を教えるだけではなく、学び合う環境を整えることになる。
次に、「ふるさと」の意識。別の言い方では、「私たちのまち」という意識。行政任せではなく、自分たちの地域は、自分たちで良くしていこうという当事者意識を持てるように、教育が果たす役割は大きい。その上で、郷土の先人に学び、その歴史と伝統の上に新しい『教育のまち』や『子育てのまち』などを創造しようとする。
【なぜ、今、教育なのか?】
社会が成熟し、人々のライフスタイルが多様化してきた。その中で、従来の教育では、行きづまる点も出てきている。たとえば、地域コミュニティや家庭に、当たり前のように支えられてきた教育は、考え直さなければならない段階に来ている。
昔ながらのムラ社会は変化してきている。核家族化、さらには一人暮らしが増えてきている。便利な社会になった反面、人と人とのつながりはなくなってきている。技術革新、産業構造の変化、情報化、国際化など、社会変化の中、学校教育でも学ぶべき内容は、多様化してきた。
これからは、より進展した知識基盤社会への対応が必要となる。知識の量ではなく、学ぼうとする姿勢が問われる時代へ移行してきている。
教育問題ではなく、直接、生活に結びつく商業・経済問題を考えるべきだ、という意見を聞くことがある。しかし、このような大きな変化の中、教育問題は無視できない。今、人口減少と少子高齢化は避けては通れない一番の課題である。一人ひとりが健康で充実した人生のため、自らの意思と行動で、学びの場や機会を創出する生涯学習社会を築いていくことは、より良い社会のためになると、私は思う。そして、自分たちのまちの活力を充実させ、まちの魅力をさらに高めるためには、教育の役割が大きくなってくる。知識基盤社会における、投資と考えることもできる。
【教育のまち・柏を目指して】
私は、高校に勤めていた。そこで、生徒の家庭事情や地域の衰退を目の当たりにし、何とかせねばと思い立った。北欧での教育実践を調べ、コミュニティ・スクールの実現を考えていた。大学院に進み、研究すると同時に、学校を支える地域の教育文化を育みたいと「柏まちなかカレッジ」を立ち上げた。
海外のコミュニティ・スクールでは、教育コンサルタントが重要な役割を果たすと知り、教育コンサルタントを始めた。やっと本来の志を果たす素地ができてきた。
豊かな学びの場が、いたる所にあり、そんな当たり前にある学びの場を、教育の機会と意識して、自分の人生を充実させるとともに、学びの成果を社会に還元していく。そんなまちに住みたいと人は集まり、ますます豊かな学びの場になっていく。人を育て、人を魅きつける。そんな循環を整えたい。教育のまち柏を目指し、これからも活動を続けていく。
柏まちなかカレッジ学長 山下洋輔