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なつかしい未来へ-地域からの発信

なつかしい未来へ-地域からの発信

以下、『BE-COM 7月号 vol.225』 (2011.5.1 BE・COMときわ通信発行)に掲載より引用

【なつかしい未来?】

「なつかしさ」と「未来」は、一見、相反する言葉に思われる。なつかしいとは、過去に使う形容詞であって、未来に使わないのが通常であるからだ。しかし、今、世界各地で、この「なつかしい未来」を目指したまちづくりが注目を集めている。

以前に、このビー・コムで紹介させて頂いた「オーラルヒストリーによるまちづくり」も、その一例である。地域に住む高齢者の方々からお話を聴き、そのお話をもとに地域の資源を引き出し、まちづくりの未来像を描いていく。その活動を通して、世代間の交流が盛んになり、話し手の自尊心が高まり、聴き手は伝統文化を学ぶ。

「なつかしい未来」は、過去に戻るという意味ではない。技術が進歩し、かつて描いていた未来が実現できるようになっている。そして、効率性や生産性だけでなく、自然環境や人間関係もふまえた「豊かさ」の価値基準を打ち出している。

 

【柏の現状と課題】

柏の強み、弱み、好きなところ、改善して欲しいところなどを話合う場を、柏まちなかカレッジで作ってきた。そこで、「手賀沼は柏の資源だ」や「自然が豊かだ」という意見が出る。東京から電車とバスで1時間かからないというのも魅力である。

一方で、都市化が進み、緑は年々少なくなってきている。公園の整備も、十分とは言えない。農地も減ってきている。農業従事者の高齢化が進み、担い手不足が深刻になり、耕作放棄地も問題となっている。

「市民活動も活発に行われている」という意見もあるが、都内で働き、地域の活動に関わらずに暮らす方も多い。

 

【地域に根ざした活動】

このような現状ではあるが、明るい話題もある。都市化が進むとともに、自然や農業に関心を持つ人が増えている。自然環境への意識は高まり、体験農園や農産物の直売所は賑わいをみせている。以前と比べ、柏への愛着を持っている人は多くなっている。

自然環境や人間関係の豊かな地域を作ろうとする機運は、高まってきていると言える。そんな中で、柏でも働きかけていきたい六つの動きを紹介する。

(1)地産地消、地域建材を使うこと。
長距離輸送のムダを省くというだけでなく、自然や関わっていく人たちの多様性を確保するために大切である。小さい農家や販売店が、自立できる環境を応援していくことであり、徹底しすぎて、食事を制限するものではない。

(2)ファーマーズマーケット(農家の開く市)
生産者との会話を通して、消費者との交流が深まる。消費者は理解や安心が得られ、生産者はニーズを把握する機会にもなる。地産地消にもつながる。柏での朝市に私も参加し、消費者は「こんなことを知りたかったのか」と驚いていた農家の方の声を聞いた。

(3)地域で作るエネルギー
震災後、ますます注目を集めているテーマである。実現可能な仕組み作りと技術革新への期待が大きい。

(4)地域通貨
以前のビー・コムで紹介させて頂いた地域通貨。これは、地域での交流を活発にする仕組みである。現段階では、身近な人間関係の中で、車の送迎やパソコンの作業の手伝いなど、日常必需品でない部分で使われているだけである。しかし、他の5つの動きと連動しながら、地域での起業など、地域の大きな役割を果たすことになると考えられている。

(5)地域の情報誌やコミュニティラジオ
このビー・コムのような地域情報誌は、貴重な存在である。マスメディアでは扱われない情報が紹介される場が確保されていることで、地域で活動できる環境が整えられていく。

(6)地域で支える学校
保護者、教職員、専門家、地域の人々で学校運営を行っていくコミュニティ・スクールや、生涯学習の市民大学や講座など、地域の人の経験や知恵を引き出したり、地域の伝統文化を伝える場としても重要である。特に、一人ひとりを大切にし、自尊心を回復することは、まちの資源を引き出すことにつながる。

これら6つは、徹底して行うというよりは、出来る範囲で、楽しみながら行っていくものである。個人を責めたり、人のせいにしたりするものではない。

 

【新しい動きと先輩方の礎】

実際に、私の周りでも、こうした動きが起こってきている。農家による朝市を開催したり、週末に体験農園に通ったり、中には新たに農家になった方もいる。そして、食や農について考える会などを開催し、発信している。

私が関わっている学習塾も、教科の学習だけではなく、耕作放棄地にて農作業を体験したり、自分たちで収穫した作物や地域の食材を使った食育を行ったりしている。ゆくゆくは、園芸療法を取り入れたプログラムを実践していこうと計画している。

これらの活動も、今に始まったものではない。これまで、地域の先輩方が積み重ねてきた活動の礎(いしずえ)があってこそだ。そういった活動から、学び、協力し合うことで、さらに活動を深めていくことができる。そこから、一つの伝統や文化が育まれていくのだと思うのである。

 

柏まちなかカレッジ学長 山下洋輔

投稿者:

山下 洋輔

千葉県議会議員(柏市選出)。 元高校教諭。理想の学校を設立したいと大学院に進学。教員経験、教育学研究や地域活動から、教育は、学校だけの課題ではなく、家庭・地域・社会と学校が支え合うべきものと考え、「教育のまち」を目指し活動。著書『地域の力を引き出す学びの方程式』 2011年から柏市議会議員を3期10年を経て、柏市長選に挑戦(43,834票)。落選後の2年間、シリコンバレーのベンチャー企業Fractaの政策企画部長として公民連携によってAIで水道管を救う仕事を経験。 柏まちなかカレッジ学長/(社)305Basketball監事。 千葉県立東葛飾高校卒業。早稲田大学教育学部卒。 早稲田大学大学院教育学研究科修士課程修了後、土浦日大高校にて高校教諭。早稲田大学教育学研究科後期博士課程単位取得後退学。 家族 妻、長男(2014年生まれ)、長女(2017年生まれ)