以下、『BE-COM 9月号 vol.203』(2009.9.1 BE・COMときわ通信発行)に掲載より引用
団地の町並みを見ながら、『百年の孤独』という南米文学を代表する小説と重ね合わせてしまうことがある。ノーベル賞作家ガルシア=マルケスによって書かれたこの小説は、ある村の創立から廃墟化とその開拓者一族の孤独が描かれている。村社会から離れ、核家族の象徴でもある団地は、この小説の孤独と共通するように感じたのである。
団地は、高度経済成長期に地方から首都圏で働く人々の受け皿として住宅建設が進められた。きれいな部屋、整備された道路、たくさんの元気な子どもたち。私が子どもの頃は、活気があり、憧れの地域であった。現在、高齢化の問題に直面し、多くの課題が指摘されている。
焦燥や不安、その他、表現し尽せない感情をもって、『高齢社会白書』に目を通した。白書によると、今から4年後、2013年の日本では、総人口に占める65歳以上の人の割合が、25.2%。つまり、4人に1人が65歳以上となると推計される。2055年には、40.5%に達するというのだ。さらに、団地の場合は、類似した世帯が多いので、高齢化の進み方は急激である。公団北柏ライフタウンのある松葉4丁目では、平成21年4月現在、60歳以上の人の割合が、32.1%。55歳以上では、45.6%である。この5年、10年で、急速に高齢化することになる。
高齢化するのは、人間だけではない。建物やインフラも老朽化する。雨漏れ、排水パイプのつまり、内壁の老朽化、樹木の管理、遊具の壊れ、建物への落書きなどトラブルも多い。エレベーター設置、廊下の増築、室内のバリアフリー化など、高齢者向けの対応も求められている。団地の建替えも念頭に置かなければならない。高層化するなど戸数を増やし、増えた分の住戸を売却して建設資金をまかなう団地もある。一方、戸数を減らし、室内を広くし、家賃を上げる団地もある。
豊四季台団地は、40年以上が経ち、建替え工事が行われた。この地域は、65歳以上の人の割合が38.9%と市内で最も高い。そこで、在宅医療システムや地域コミュニティ形成といった長寿社会のまちづくりが、柏市・東大・都市再生機構によって検討されている。このように、全国で団地の課題が検討され、解決策が試みられている。これらの試みは、全国の団地の参考になるものであろう。
様々な課題の中から、高齢化とグローバル化を示す現代社会の縮図とも言えるある例について考えてみたい。高層階に住む高齢者にとって、エレベーターがないということは生活に支障をきたすので、引っ越してしまった。そこに、外国人が入る。大人数で暮らしているという。生活習慣の違いで、夜も騒がしく、ゴミ出しに関するトラブルが絶えない。これは、松葉町で耳にした話である。これでは、地域社会の希薄化どころか、地域社会の崩壊すら心配される事態である。網野善彦は『日本の歴史を読みなおす』の中で、現在は14世紀の南北朝動乱期以来の大転換期にあたると述べている。江戸時代でも社会の基本単位であった村というコミュニティは、今、大きな転換点を迎えている。
台所・トイレ・リビング共用の都内のあるゲストハウス。ここは現代の長屋と呼ばれ、若い住居者でにぎわう。住居者の約4割が外国人。開設当初は、住民のトラブルが多かった。そこで、入居希望者との面談で、ゴミ出しなどのルールを説明し、違反者への厳格なルールを設定したそうだ。外国人に限らず、現代人の生活は多様化している。規則で縛るためではなく、お互いの理解を深めていく対話がルール作りの狙いであった。
自分たちの生活をよりよくするために、自分たちでルールを作る。それを実行するためには、政治的な力も必要かもしれない。まさに、直接民主政治だ。地方分権が、話題になっているが、私たちの身近な地域コミュニティからも社会を変えられる可能性はあると信じている。
(山下 洋輔)