以下、『BE-COM12月号 vol.265』 (2014.11.1 BE・COMときわ通信発行)に掲載より引用
【学力テストと柏市の取り組み】
全国学力テストのニュースになると、○○県が何位だったたとか、本県の平均点が0.3ポイント上昇したとか、結果を公表すべきかどうかなどと騒がれる。
しかし、教育委員会が取り組んでいる報告書や授業改善の取り組みに注目したり、学習状況調査で指摘される家庭での会話を増やしたり、早寝早起き朝ご飯を呼びかけたりするほうが有意義だと、私は思う。
全国学力テストは、学力•学習状況調査といって、義務教育の機会均等とその水準の維持向上のため、全国の状況を把握し、検証し、授業改善に役立てるものである。
全国学力テストは、4月に小学校6年生と中学3年生が、国語と算数•数学を受験する。
柏市では、独自で柏市学力•学習状況調査を行っている。こちらは、小学校2年生から中学3年生までの全学年が受験。国語、算数•数学のほか、中学2、3年生は英語、理科、社会も受験。柏市版の学力テストは、全学年が受験するので、経年変化や、他学年との比較も可能である。
柏市版学力テストは7月に報告書が、教育委員会によって作成され、各学校への分析がなされ、2学期からの指導に活かされている。
【経済格差と学力の現状】
点数を上げるために、学力テスト対策すべきという声もあるが、私は反対だ。
学力は、個人や学校の努力だけで成り立つものではない。家庭環境や地域の教育環境、社会経済にも左右される。
この学力•学習状況調査で、現状を把握し、出てきた課題を直視し、それらを解決するために社会全体で取り組む必要がある。
育った環境によって受けられる教育に差があるという現実を、家庭教育を支援する活動を実践されている元校長先生や保護司の方とお話しして思う。
人口減少やグローバル化という社会の流れの中で、教育格差が問題となっている。教育機会を保障する公教育と学校の役割は、重要である。
私が教員を辞め、市議会議員として取り組まなければならないと考えさせられたテーマでもある。
経済的、文化的な格差が学力格差につながる一方で、「つながり(社会関係資本)」も学力格差に影響すると、研究で指摘されている。
「つながり(社会関係資本)」は、学校•地域や親の努力で変えていけるという望みがある。議会での活動だけでなく、まちなかカレッジや更生支援、町会などの活動に取り組んでいるのも、教育を社会で支えていきたいと考えているからだ。
【暮らしのせいにしない学力向上対策】
学力テストの結果に一喜一憂し、各校の成績を公開すべきかどうかの議論がマスコミをにぎわせるが、地道に取り組んでいる教育委員会も注目されている。
大阪府茨木市は、「一人も見捨てない教育」という目標を掲げ、学校現場、行政が一丸となって取り組んできた。学力テストの結果を分析し、現場が必要とする支援を行う。先日、大阪府茨木市での実践を視察してきた。
1999年に学力低下が騒がれたが、研究者たちの調査により、上位層と下位層のフタコブラクダ化の傾向が見られるという学力格差の拡大が指摘された。
つまり同じ平均点50点でも、グラフが50点を頂点に山なりになっている場合と、たとえば、30点と80点の二つの頂点がある場合がある。平均点だけでは、判断できないのだ。
この指摘に従い、上位層を伸ばし、下位層を引き上げる学力向上施策を、茨木市は平成18(2006)年からスタートさせた。
全国的に見て、学力向上に効果のある学校は、教育的に不利な層の学力下支えに成功していることが分かった。
【スクールソーシャルワーカーの導入】
学力向上プランと言うと、学校現場は教育委員会から押し付けられたと感じるもの。しかし、茨木市は、施設面だけでなく、スクールカウンセラーやスクールソーシャルワーカー、補助教員など学校現場が必要としていた人的な支援を行い続けることにより、現場の理解を得られるようになってきたとのこと。
子どもたちが、健やかに成長していくためには、学校や家庭が安心・安全に生活できる場であることが不可欠である。しかし、いじめ、養育困難、家庭内暴力など様々な事情で、その安心・安全が確保できず、不登校や学校内外における問題行動を引き起こすなど、子どもが抱える課題は複雑化している。
このような課題に対して、学校や家庭、地域を含めた子どもたちを取り巻く環境に着目し、その調整を図るのがスクールソーシャルワーカーである。
【教育は未来への投資】
茨木市の学力向上事業について、平成20年度の比べると、平成26年度の決算額(約2億5千万円)は、約10倍。地方財政の厳しい中、人口約28万人の自治体にとって、かなり大きい。 耐震改修やトイレなどの学校施設費だけでなく、教育内容といったソフト面に、これだけの予算を当てるのは、強い思いがあってこそである。
この予算を確保できたのも、教育委員会が、すぐには結果が出ない学力や量的に評価することが難しい生きる力などの成果を、データを活用し、示していった努力のおかげでもある。
子どもの未来は、地域•社会の未来だと、口だけではない。施策が実現している。
大きな目標がしっかりしていること、その成果を教育委員会がデータに基づいて評価して翌年度につなげていること、学校現場との合意形成、市民•議会の理解などが、成功の鍵だった。
目を引くような、受けの良いものではないが、地道に、しっかりと取り組んでいる事例である。柏市の教育委員会の方々とも、共に研究し、柏市の教育にも反映させる。
柏まちなかカレッジ学長 山下 洋輔