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助け合えるコミュニティを作る力

以下、『BE-COM 11月号 vol.217』 (2010.11.1 BE・COMときわ通信発行)に掲載より引用

助け合えるコミュニティを作る力

【今、求められている力】

就職活動生やビジネスパーソンが読む週刊誌、先輩方のお話で、「今、求められている力」について話題になる。知識や学歴ではなく、人間関係を築ける力が大切だという意見が多い。教育の審議会や経済界でも、同じ様な意見を聞く。

私は、教育学を大きく三つの分野でとらえている。一つは、「教育とは何か」を問う教育哲学。二つ目は、「何を学ぶか」を考える教育内容。三つ目が、「どのように学ぶか」を検討する教育方法。この三つの分野を意識することで、議論の行き違いを防ぐことができる。

今、人とつながり、社会を作っていく力が求められている。これは、教育内容についての考えだ。この考えの背景には、教育とは人と人との出会いによって成長するという哲学が存在する。もう少し大きな視点から、教育とは子孫へ文化を伝承していく行為であるという哲学も読み取ることができる。

では、人と人との関係を作る力を育てるには、どうしたらよいか。これを考えるのが、教育方法である。たとえば、柏まちなかカレッジを立ち上げたり、地域通貨を導入したりして、地域での人と人との関係作りのきっかけを作ることなどがあげられる。

 

【つながりを失った現代】

二十四時間サービスの行き届いたコンビニ、防音や防災が整ったような居住空間、住民のニーズに応えてくれる行政。快適な暮らしを享受しているといえる。だから、近所で助け合う必要もなく、わずらわしい人間関係に悩まされることもない。ただ、最近になって、困った側面が目立つようになってきた。

ある大学で、昼食を一緒に過ごす友達作りのサポートが始まったというニュースがあった。「なぜ、大学がそんなことを?」と思われた方が多かったのではないだろうか。余計なお世話のようだが、そうでもないらしい。実際に友達ができずに中退する学生が多いという。学生にとってはいいきっかけ作りとなり、大学にとっては中退の予防策となっているのだ。

団地では、孤独死のニュース。「おひとりさまの老後」の過ごし方が課題となってくる。行政がしっかりとサポートすればいいと任せてしまうと、高齢化社会では若者の負担が大きくなる。何らかの助け合うシステムが求められている現状がある。こうした背景からも、人とつながり、コミュニティを作る力は注目されているのである。

 

【見えない資源-ソーシャルキャピタル】

今、ソーシャルキャピタルという概念が、世界的に注目されている。日本語では、社会関係資本と訳される。地域社会での互いに信頼し、助け合える人間関係のことをさす。当たり前のようなことだが、これからの社会で大切な要素として見直されている。観光スポットや商業施設と同様に、一つの地域の資源として考えられるようになる。

実際、経済的にも効果がある。たとえば、住民の助け合えるような関係のある地域の方が、ない地域よりも、社会の運営がうまくいき、経済的にも発展しているという研究結果がある。また、別の説明もある。お互い協力し合えば得られるはずの利益があったとする。しかし、自分の利益だけ考えて行動すると、誰もがその利益を得られなくなってしまう状況がある。こうした状況を避けるためにも、お互いに信頼し、助け合うことが求められている。

抽象的な話になってしまったにで、身近な例をあげよう。私自身、親の転勤で引越してきて、柏には親戚などもいない。就職すると、学校の友達とも離れて暮らすが、職場のコミュニティに入った。しかし、勤めを辞め、組織から抜けると一人になってしまった。終身雇用の形が変わり、かつての私のような若者も多い。定年退職された方の中にも、孤独を感じるとお聴きしたことがある。一人暮らしのご高齢の方、子育て中の方、障がいのある方、その他どんな人でも、安心して暮らせる地域は魅力的だ。信頼し、助け合える関係は、やはり重要な資源となる。

 

【現代版コミュニティの模索】

お互いが信頼し、助け合える人間関係のあるコミュニティを作る力を、みんなで身につけよう。当たり前なので、今さら強調することもないという批判もあるだろう。そして、昔みたいに戻ればいいという意見もある。しかし、社会が変わり、当たり前のことが当たり前にできていない現状がある。「昔は良かった」と嘆いてばかりもいられない。

イエ制度やムラ社会、終身雇用制度といった、今までのコミュニティを再現することはできない。しかし、人は社会的な動物である以上、人とのつながりを大切にし、より良い関係を築いていこうとするものである。

そう信じ、私は、教育内容の観点から、主張していきたい。そして、地域の人々が助け合えるような仕組みも教育方法として提案し続けていく。

投稿者:

山下 洋輔

千葉県議会議員(柏市選出)。 元高校教諭。理想の学校を設立したいと大学院に進学。教員経験、教育学研究や地域活動から、教育は、学校だけの課題ではなく、家庭・地域・社会と学校が支え合うべきものと考え、「教育のまち」を目指し活動。著書『地域の力を引き出す学びの方程式』 2011年から柏市議会議員を3期10年を経て、柏市長選に挑戦(43,834票)。落選後の2年間、シリコンバレーのベンチャー企業Fractaの政策企画部長として公民連携によってAIで水道管を救う仕事を経験。 柏まちなかカレッジ学長/(社)305Basketball監事。 千葉県立東葛飾高校卒業。早稲田大学教育学部卒。 早稲田大学大学院教育学研究科修士課程修了後、土浦日大高校にて高校教諭。早稲田大学教育学研究科後期博士課程単位取得後退学。 家族 妻、長男(2014年生まれ)、長女(2017年生まれ)