以下、『BE-COM 1月号 vol.231』 (2012.1.1 BE・COMときわ通信発行)に掲載より引用
そもそも会議
【今までの常識を問い直す】
震災以降、日本の社会は大きく変わりつつある。「国や大企業に任せっぱなしで、自分たちの社会に無関心のままではいけない」と思う人が増えている。「今まで当たり前と思い込んでいたことが、当たり前ではなかった」と気づいたという声を聞くことが増えた。
今まで当たり前のように使っていた電気は、どのように作られ、どのような仕組みで私たちのもとに届いているのか。過去にうまくいった方法が、これからも通用するのか。根本的なところから考え直さなければならないと、多くの人が気づき始めたように感じる。
そうは言っても、日常生活の中で、立ち止まってじっくり考えるというのは、多くの人にとって難しいことである。仕事や生活に忙殺され、「今まで通り」に過ごしてしまうものである。そこで、私たちが主催する柏まちなかカレッジでは、考える機会を提供しようと対話や哲学的な講座を企画している。そのなかで、「そもそも会議」というアイデアが持ち込まれた。今、盛り上がってきており、今後、注目されると予想されるので、ここで紹介しておきたい。
【そもそも会議とは】
「そもそも会議」とは、「そもそもさぁ」という言葉を使って、日常生活で当たり前になっている常識を、あらためて考え直す話し合いの場である。
「そもそも働くって何だろう」、「そもそも幸せって何だろう」「そもそも所有って何だろう」「そもそも成功って何だろう」「そもそもお金って何だろう」などなど、当たり前と思い込んでいたことや何となく感じていた違和感を話し合う。
「行き詰った社会の中で立ち止まった大人や、これから多くの困難に直面するであろう若者が、もう一度考え、行動するためのきっかけやエネルギーになることを目指している」と、そもそも会議の提案者は書いている。多様性を認め、違う価値観と共存していく。問いを持ち続ける習慣や文化を作っていきたい。そう語っておられた。
この「そもそも会議」は、テレビ番組の制作チームから生まれた。もともとは、テレビ番組の企画としてスタートしたが、商業放送として成立させることができず、挫折してしまったそうだ。それでも、どうにか形にしていきたいという思いを持ち続け、活動していた中で、昨年11月に柏まちなかカレッジで、第一回を開催するに至った。 第一回目の参加者は、高校生と保護者、教員、柏まちなかカレッジの受講生(18歳から75歳)、テレビ番組製作スタッフ、対話を研究・実践している専門家たち、と多様なメンバーであった。
【難しいと感じさせない工夫】
「そもそも会議」に参加し、学んだこと。それは、誰でも楽しめるための工夫である。「そもそも会議」というネーミング自体も、うまい。難しいテーマなのに、誰もがイキイキと話し合っている。難しいテーマをかっこつけて、難しく語り、しらけてしまう。あるいは、難しいテーマを簡単にして、話し合いが深まらない。そんな失敗が多い中、「そもそも会議」は、どのような工夫をしているか紹介したい。
6つのルールを書いた紙が各机に置かれた。1わざとつまらないことを言っちゃおう!(発言のハードルを下げる、聞いてもらえる安心感)、2なるべく自分の体験を語ろう!(抽象論にならないように、共感をもとに)、3正解の主張、攻撃、説得禁止!、4変化していく自分を楽しもう!(相手を変えることが勝ちではない)、5そうは言っても波風立ったらそれもよし!(不完全さの寛容とカンフル剤効果)、6聞いたことは今日この場限りで。(本音やプライベートを話せる絶対安心)
このルールはわかりやすく、6つに絞られているので、難しい言葉を使っての討論にうんざりするようなことはなかった。
また、楽しむための6つの心得について説明を受けた。1当たり前なはずだった価値観や生き方を見直してみることを楽しむ。2価値観の多様性を自然に受け入れてみることを楽しむ。3討論で正解を競うのではなく、相手を理解して自分が変化することを楽しむ。4誰かのせいにする前に自分の意識から変えてみることを楽しむ。5自分の「問い」を持ちながら暮らしてみることを楽しむ。6困難を機会と考えてみる。
多様性を受け入れること、問いを立てることが、柱となっている。
【いったん白紙に戻す勇気】
昨年7月に柏まちなかカレッジで、『哲学への権利』の上映・対話会を、監督をお招きして開催した。ジャック・デリダらによって創設されたフランスの市民団体「国際哲学コレージュ」についてのドキュメンタリーである。
ここで印象的だったのは、「問い」を立てることについてであった。いかに、根本的に「問い」を立てていくことができるか。常識と考えていることを、いったん白紙に戻して、考えていくことの大切さを感じた。
「そもそも会議」で、「そもそも元気な地域社会とは何か」をテーマに話し合われていたテーブルがあった。高齢社会において,高齢者が地域社会において自分の役割を見出すべきだという考えが大勢を占める中、「そもそも地域社会とは何か」、「よりよい地域社会とは年寄りだけで作るものなのか」、「地域社会を必要としない若者にとって、地域社会の存在には何の意味があるか」、「地域社会が必要なのは有事の時だけか」といった突っ込んだ考えも出た。
さらに,高齢者が第二の人生において役割を見出すには,それまでの知識や経験に頼るのではなく、「いったん白紙に戻すべき」という言葉があり、この言葉には共感する人も多かったと言う。
社会が変わりつつある今、いったん白紙に戻す勇気を持てるかが重要なのではないだろうか。
柏まちなかカレッジ学長 山下洋輔