オーラル・ヒストリーによるまちづくりについて‐2011年9月議会で質問

【質問意図】柏のことが好きだ、柏に住んでいると自慢したくなる、そんな愛着と誇りが、この柏をより良くしていく資源になると考えています。都内で働き、柏には寝に帰るだけ、あるいは、たまたま柏に住んでいるだけ、というのではなく、柏を愛し、柏という共同体に根ざしたアイデンティティを持った市民が増え、一緒によりよい柏を作っていきたい。

そこで、柏のオーラル・ヒストリーや民俗芸能など、無形文化遺産を大切にし、市民のアイデンテティにつなげていくことが大切と考える。

 

山下洋輔 第一問目質問

 

柏には歴史も文化もない、そう嘆く人の話を聞くことがあります。たしかに、我孫子には白樺派、流山には小林一茶、松戸には徳川家といったような有名な歴史が、柏にはパッと思い当たらないかもしれません。しかし、人が住み、生活が営まれてきた以上、歴史や文化はあるといえます。とくに、私の学んできました歴史学の考えでは、そんな民衆の生き様こそ、社会を築き上げてきた主体であり、歴史として重視されています。

 

 

徳川家康などと違って、普通の人の経験が尊重され、その生活文化が次の世代へ語り継がれるコミュニティを整えていく必要があると、私は考えています。普通の人こそ、歴史の主体であるからです。

以前なら、おじいさんが孫に、ムラの長老が若者に、上司が部下に語るコミュニティがあり、語り継いできた無形の文化遺産がありました。今日、核家族化、グローバル化、終身雇用制の見直しなどにより、コミュニティの形態が変化しています。

 

昔ながらのムラ社会を復活させようといっても、逆戻りできない状況であります。このように、個人の経験を次の世代に伝えていく仕組みが失われつつあるのが、現状であるといえるのではないでしょうか。

 

地域の歴史は、自らのアイデンテティといえます。

 

柏には、デパートや娯楽施設など、楽しみを与えてくれるサービスが充実しています。しかし、与えられた楽しみであって、自分たちで作り上げた楽しみであるとは言えません。いざ、何か作り上げようと思い立っても、仲間が見つからない。都内で働き、柏で寝る。長く柏に住んでいても、地域での顔はない。そんな根無し草のような孤独を感じる。こんな声を、地域での活動に思い切って初参加した方々からお聞きしました。

 

「自分の故郷を聞かれ、柏と答えたいが、躊躇する」といった声も聞きました。

 

自分の親には、地方の故郷と呼べる場所はある。しかし、自分自身は転々と地域を移り、便利な柏に長くは住んでいるが、故郷と言っていいものかと迷う、とのことです。

 

このような話をお聞きし、ビッグシュー日本代表の佐野章二さんから伺った話を思い出しました。「ホームレスには、二つの問題がある。物理的な家がないハウスレスと家族関係や地域とのつながりのないホームレスであり、後者のホームレスの問題は深刻である」、と。

 

これは、市民のアイデンテティの問題にもつながってくると考えています。アイデンテティは、記憶と結びついたものであります。親と遊んだ公園、小学校への通学路、日常の買い物をした商店。

 

地域の歴史は、その土地に住む人たちの共通の記憶です。そして、その共通の記憶を共有することで、コミュニティが生まれていきます。

 

今、オーラル・ヒストリーを収集し、保存しようという全国的な動きがあります。生活スタイルが激変し、また戦争経験者は高齢になり、緊急の課題になっています。

 

この収集されたオーラル・ヒストリーを公共の文化資源として、都市デザインに活用している地域も増えています。景観や建物だけでなく、市民のアイデンテティといった見えない資源としての価値を見出されています。

 

さらに、このオーラル・ヒストリーを収集する過程において、話す側とインタビューする側の双方を巻き込んだコミュニティを生み出しています。市民が作る、市民の歴史の形を取り、市民の参加を促しています。地域への愛着と誇りを生む仕組みとして注目を集めています。

 

社会変化により、先人の経験が断絶するおそれがあります。それを阻止しようと、各地での活動が行われています。韓国でも、公文書館を中心にオーラル・ヒストリーのアーカイーブ化が進められ、ニューヨークの図書館ではオーラル・ヒストリーを収集する市民活動を支援し、図書館にて保存しています。なくなってしまってからでは、取り返しのつかないものもあります。

 

そこで、質問です。

 

柏のオーラル・ヒストリーや民俗芸能など、無形文化遺産の価値に関する認識と、そういった無形文化遺産を残す取組みの状況について、お答えください。

 

◎生涯学習部長(草野啓治君)答弁

オーラル・ヒストリー、口述の歴史によるまちづくりについてお答えいたします。市民の皆さんがみずから住んでいるまちの歴史を知ることで、またふるさと意識を高めていただき、まちづくりに参画していただくため、市では柏に関する古文書や考古資料、写真、金石資料、伝承など、これらの有形無形の歴史資料を整理、保存、管理いたしまして後世に伝える市史編さん事業、これを行っております。これまでに通史や年表、市史資料集を初め、歴史ガイドかしわや写真集などの書籍、これらの刊行事業を行ってきたほか、歴史講演会や古文書講座、歴史散歩等を行い、市史に関する啓発事業も行ってきているところであります。また、本市は約10万点に及ぶ歴史資料を保有しておりまして、これらを整理、保存し、活用していくことも市史編さんの大きな事業の一つとなっております。また、これらの膨大な資料につきましては、その整理に多くの時間と人手が必要となりますことから、平成20年度からは市民ボランティアの皆さんの御協力をいただきながら作業を進めております。また、その作業の成果の結果につきましては、沼南庁舎に併設しております郷土資料展示室において公開しているところでございます。これらの事業につきましては、歴史の区分で申し上げますと、柏の原始、古代、これに始まり、中世、近世、近代へと続く、言うなれば昔の話、これらをまとめていく作業であるのに対しまして、近現代以降の最近の歴史につきましては、これらをどのように記録していくかが今後の課題となっております。御質問にありましたオーラル・ヒストリー、これはこれらの近現代の歴史を記録していくためには一つの方法であるというふうに考えております。柏市は、昭和の大合併による昭和29年の市制施行以降、人口増とともに都市化が進み、インフラの整備や生活様式の変化などにより、まちの様子が大きく変わってきたのは御案内のとおりでございます。また、2005年、平成17年には平成の大合併、これによりまして沼南町との合併もありまして、変貌を遂げてきた歴史がございます。これらの歴史を、今を生きる柏の人たち、その人たちがその体験を語り、記録していくことは、私たちの地域文化を理解する意味で大変貴重な資料となります。このため、市では平成19年、柏の葉地区にありました旧陸軍の柏飛行場に関する体験発表会を開いています。その内容を聞き書きで記録しております。また、平成20年には入居開始当時の光ケ丘団地というテーマで、また平成22年には柏駅周辺の商店街の発展、こういったテーマで歴史座談会を行っておりまして、その様子も記録してございます。これらの記録の一部につきましては、今年度創刊予定の柏市史研究に掲載しまして、広く市民の皆さんに公開していく考えでございます。また、御質問にありました無形の文化遺産についての取り組みでございますけれども、ただいまのような記録に加えまして柏にはいろいろな郷土芸能というのがございます。これも無形の文化財でありますが、こういったものは保存会の皆さんに保存していただいておりますが、その活動を支援していくというようなことも行っております。また、過去にですけれども、柏の民俗というような書籍も発行しておりまして、これはいわゆる聞き取りで記録した内容となっております。市史編さん事業につきましては、地道な作業の繰り返しでありますけれども、今後もより多くの市民の皆さんに愛郷心を持っていただくため事業を継続してまいりたいというふうに考えております。

山下洋輔 第二問目質問
オーラルヒストリーによるまちづくりですが、現在の市民ボランティアの方や保存会の方々の活動というのをお聞きしました。今この歴史の好きな方とか、そういったかかわっている方という方の活動が多いと思うんですけれども、やはり先ほどのお話でもありましたように、すごく量の多い資料とか聞き取らないといけないことというのはすごく多くなってくると思うんですが、今後どういう形でこの市民ボランティアや多くの人を巻き込んでいくような仕組みみたいなことを考えていらっしゃるか、お示しください。

◎生涯学習部長(草野啓治君)答弁

先ほど市民ボランティアというふうに申し上げましたのは、今10万点という非常にたくさんの収集した資料がございまして、これを一つ一つ中身をチェックしたり、ちょっと汚れていたりするものを直したりとか、それから書いてあるものを読み込んだりとか、そういう資料を少しきれいにして整理して袋に入れる、こういう比較的単純な作業を今やっております。その成果につきましては、いずれ書籍になるものもあるでしょうし、あとその現物そのものを郷土資料展示室で公開すると、こういうふうにやっております。実際に今100人近くの方にそういった内容で協力をいただいております。今後オーラルヒストリーの分野でどういうふうにこういう方々に協力していただくかは、今後考えていかなければいけないと思っております。
◆山下洋輔 第3問目質問
聞き方の問題で、広めていくというのは、知らしめるという意味というよりは、人を拡大していくというのでしょうか、輪を広げていくようなふうにというのは今後検討していくということですか。
木を植えた男という話なんですが、荒れ地に羊飼いの人が種を植えていって木を植え続けると、その荒れ果てた地が何十年後かには甘いみずみずしい風の吹く土地になったという話があるんですけれども、この偉業の裏には失敗や挫折があって、その種を植え続けた男の人の強い意思があったというふうに言われています。今この生涯学習の文化を収集していくというような試みというのは、そういった木を植えるような大切なものと考えておりまして、今ボランティアの方を指導して構成して取り組みを引っ張っていっておられる方の活動というのはすごくそういった大切なことなのではないかと思いまして、ぜひこの取り組みをもっと強い意思を持ってこれからもなくなってしまわないように継続してバックアップしていくことはとても必要であると考えます。この質問はこれで終わります。

 

投稿者:

山下 洋輔

千葉県議会議員(柏市選出)。 元高校教諭。理想の学校を設立したいと大学院に進学。教員経験、教育学研究や地域活動から、教育は、学校だけの課題ではなく、家庭・地域・社会と学校が支え合うべきものと考え、「教育のまち」を目指し活動。著書『地域の力を引き出す学びの方程式』 2011年から柏市議会議員を3期10年を経て、柏市長選に挑戦(43,834票)。落選後の2年間、シリコンバレーのベンチャー企業Fractaの政策企画部長として公民連携によってAIで水道管を救う仕事を経験。 柏まちなかカレッジ学長/(社)305Basketball監事。 千葉県立東葛飾高校卒業。早稲田大学教育学部卒。 早稲田大学大学院教育学研究科修士課程修了後、土浦日大高校にて高校教諭。早稲田大学教育学研究科後期博士課程単位取得後退学。 家族 妻、長男(2014年生まれ)、長女(2017年生まれ)