ロビー活動は、ビジネスの要訣と言っても過言ではありません。
品質や価格も大切ですが、ルールメイキングできるかどうかが、これからのビジネスの成否を分けます。
これまで日本では、ロビー活動にはあやしい、悪いイメージがこびりついています。時代劇で、悪代官に、商人が菓子折を献上する。その底に小判が敷き詰められていることを確認した悪代官が、「越後屋、お主も悪よのう」と言うと、「お代官様こそ」と静かに笑い合う。そんなイメージです。
現代でも、IR や洋上風力発電の関係では国会議員が逮捕されました。裏金問題も明らかになってきました。政治には関わりたくないというのが、多くの日本企業の姿勢ではないでしょうか。
しかし、ロビー活動により、ルールを作れるかどうかが、その市場で生き残れるかどうかにかかっています。ルールや基準に合わせていては、競合他社に置いていかれます。ルールや基準に働きかけるのです。ロビーが企業に力を与えます。
実際、欧米では、GoogleやFacebookはもちろん、多くの企業で、ロビー活動への支出が増え、ロビー活動に取り組むロビイストが増えています。グローバル化する世界です。日本でも無視できません。
これまでの悪いイメージのロビー活動ではなく、公益性、透明性、公平性のあるこれからの時代のロビー活動を推し進めていくべきです。
パブリックアフェアーズ(Public Affairs)やパブリックリレーションズ(Public Relations)と、戦略的PRとも呼ばれます。
その手法は、広報とも共通しています。1社の利益だけではなく、社会全体の公益的な視点が必要です。社会がより良くなるよう、企業の理念を示し、ステークホルダーを巻き込み、社会に一石を投じる。政治にも通じるものです。
理念や計画を示し、資金調達や政策提案をしているベンチャー企業でのロビイストは、政治家と通じるものがあります。欧米では政治家とロビーイストが回転ドアのように行き来し、政策人材の市場が形成されています。納得です。
私自身、Fracta Japan株式会社にてロビー活動を担当しました。AIを活用し、水道管の劣化を予測するソフトウェアを地方自治体に提案します。
インフラの老朽化と人口減少の課題を、テクノロジーを活用し、財政負担を減らし、市民の暮らしを守っていく。情報収集、政策提案、政策決定を後押しする世論形成を目指し、地方自治体の首長や議員対象の勉強会で発表を重ね、研究者とも議論し、政策を研究し、メディアに発信していきました。
知り合いの政治家との個人的関係でねじ込んだり、既得権益団体と交渉して利権を分けてもらったりするのではなく、オープンな場で、公正に働きかけていく。
ひたすらドアノックするような営業でもない。
AIによる劣化診断は、全国の自治体でも前例がない取り組みでした。地方行政課題の文脈に位置づけ、理解者を増やし、認識してもらい、その解決策として各自治体でのプロポーザルや入札の仕様書に明記され、行政の一つの事業として、全国の自治体で取り組まれる段階にまで進めることができました。
自治体の政策に、自社の事業をどう位置づけるか。情報収集により同業他社と差別化し、自社の強みを基準に定める。その根底には、社会をより良くしたいという理念がなくてはなりません。
同業他社との協働も重要です。一企業ではできないことを、業界団体として政策や世論に働きかけていく、そんなロビー活動に取り組んできました。
また、『日本版GR(ガバメント・リレーションズ、Government Relations)』を、「地域課題解決のための良質で戦略的な行政との関係構築の手法」と定義し、その必要性を広めること、事例を学べること、プレーヤー同士が繋がれることを目指す一般社団法人日本GR協会に、GRオフィサーとして参画しています。
教員から研究者、研究者から政治家、市長選を経て民間企業、そして再び政治に。政治と民間を行き来できたこと。また教育分野での現場経験と研究、教育政策と教育行政、私塾経営に関わったこと。私自身が経験したことを深め、社会のお役に立てるよう、これからも活動してまいります。
写真は、株式会社ベクトル パブリック・アフェアーズ事業部、藤井敏彦、岩本隆著『ロビイングのバイブル』(プレジデント社)です。