以下、『BE-COM 4月号 vol.208』(2010.4.1 BE・COMときわ通信発行)に掲載より引用
アフリカで主体的な市民の育成を支援
【熱い視線が注がれるアフリカ】
今年、サッカーワールドカップが、初めてアフリカ大陸で開催される。アフリカの国々が、次々に独立を果たした「アフリカの年(1960年)」から、ちょうど50年の節目の年だ。世界の陸地全体の約2割の面積を占めるアフリカ大陸。そこには、世界のダイヤの6割、プラチナの9割、コバルトの4割がアフリカに集中し、石油や天然ガスの埋蔵量も1割はあると推定される。まだ探鉱されていない未開の地も多い。今、熱い視線がアフリカに注がれている。
【アフリカ独自の知恵】
アフリカは、古くから交易を行い、商業が盛んな地域であった。地中海、大西洋、インド洋、ニジェール川などの大河、サハラ砂漠を経由し、イスラム圏や中華圏との世界的なネットワークを形成していた。中国の磁器、貨幣、絹織物、インドのガラス玉などがアフリカの都市から出土し、その交易範囲の広さを証明した。マリ国王がメッカに巡礼した際、あまりにも豪華な行列であったため、沿道のイスラム諸国は驚いたという記録も残っている。
私とアフリカとの出会いは、ブラジルのカポエィラがきっかけであった。カポエィラとは、武道であり、伝統芸能であり、西アフリカにルーツを持つ。音楽、歴史、祖先や自然への敬意など、アフリカの叡智がつまっている。ニューヨークで、ブラジル人から、西アフリカの話を聞く。そんな世界の広がりを体感した。アフリカの独特のリズム、色彩、彫刻、デザインは、20世紀のアートに大きな影響を与えた。
【住民参加の学校運営】
アフリカ全体の人口は、約9億人。世界の約七分の一だ。今、都市部を中心に急激な勢いで人口が増えている。飢饉、紛争、貧困、病気などにより、学校へ行けない子どもが多いのが現状である。地下資源のみならず、教育による人材開発が、今後の課題である。
このようなアフリカに対し、世界は援助を行ってきた。この援助のあり方が、今、転機を迎えている。援助は物資ばかりではない。大切なのは、社会づくりである。そのためには、社会の自治性を高める必要があるといったJICA(独立行政法人国際協力機構)理事長・緒方貞子氏のお話が印象的であった。
例えば、給水塔を建てれば、それを管理する組合を作る。つまり、地域の人々たちが意識を持ち、自分たちの力で何かやろうという気持ちになってもらう。そのために、地域に必要なことを、地域の人たちが考えて、実行していく仕組みを作る。支援する側の考えではなく、そこに住む人の側に立った支援を模索している。このように考えると、日本のコミュニティ自治にも共通したテーマとなる。
そんな中、私が注目しているのは、JICAの「みんなの学校プロジェクト」である。これは、住民が学校運営に参加することで教育への意識を高めていこうというものである。世界銀行をはじめ各国の支援により学校建設は進められ、ハード面は充実してきた。しかし、教員の質や親の意識は低いままの地域が多い。学習内容も地域のニーズにあっていなければ、仕事を休んで学校に通う意味も見出せない。そこで、教育のソフト面の充実と親の意識改革が求められていた。また、海外からの支援が撤退しても、地域で自立的に学校を管理・運営できることも必要である。このような背景から、「みんなの学校プロジェクト」は、ニジェール政府の政策と連動してスタートした。マリやブルキナファソといった周辺の国々でも、みんなの学校の実践が広まっている。
【地域からの国際交流】
学校に行けない子どもの問題は、少数民族や途上国の女子などをイメージするが、「自らの潜在能力を伸ばし、夢を実現し、教育を通じてよりよい将来を築く機会を奪われている」という観点で考えると、日本の不登校児童・生徒も該当する。環境の違う、遠い国の事例のほうが、問題の本質が見えやすい時もある。アフリカで、住民参加の学校運営により、女子の就学率向上を成し遂げた事例は、日本の学校にも参考になる。
私たちが行っている柏まちなかカレッジは、まちの人が先生・まちがキャンパス・市民参加型の学校運営である。「みんなの学校プロジェクト」と相通じる所が多い。そこで、JICAの勉強会で、柏まちなかカレッジの事例を報告する機会を得た。
もともと、私は、日本の教育を世界に発信するために、大学院に進学した。授業記録や授業記録、教員同士の学び合い。そういった綿々と伝わる日本の教育実践を世界に紹介し、普及させたいという思いがある。一市民に過ぎない私でも、遠く離れたアフリカの教育に、曲がりなりにも貢献することができた。これからの時代、グローバル化が進み、自分の考えや思いが世界に広がるチャンスは増えてくるだろう。よりよい社会を目指そうという連帯が、身近なところから始まっていることを実感している。
(山下 洋輔)