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本がつなぐ人とまち‐成熟したまちへ

以下、『BE-COM 11月号 vol.229』 (2011.11.1 BE・COMときわ通信発行)に掲載より引用

本がつなぐ人とまち‐成熟したまちへ

【本屋と地域の文化力】

 私の近所の本屋さんで、『一箱古本市の歩き方』という本を勧められた。この本は、お客さんが取り寄せの注文をし、店主も興味を持ち購入したそうだ。

思えば、近頃は、こぢんまりとしたまちの本屋さんが少なくなってきた。Amazon.co.jpなどインターネットでの注文や品ぞろえを誇る大型店のように、すぐに目的の本を入手することはできないが、本にまつわる会話を楽しんだりできる場は、貴重である。センスの良いまちの本屋さんが存在するのは、その地域の文化が成熟している証拠と言える。本好きが店を支え、店が本好きを増やしていくという好循環がある地域には、風格を感じる。

話を戻そう。勧められた本を読み、ぜひ柏でも、「一箱古本市」のようなイベントを開きたくなった。店主は、予想通りの反応が得られた模様である。この本を注文した方や、他の人にも呼びかけて、イベント開催に向けて動き出した。これも、一つの本がつないだご縁である。63本まっち

【古本市の新たな流れ】
読書離れや出版業界の不況など、本にまつわる暗い話題を聞く。しかし、今、新しい流れが起こりつつある。

本について語り合うブックトーク、社会人の交流会でもある読書会、絵本の読み聞かせ、音楽演奏をバックに朗読、読み終えた本を放置して誰かに読んでもらうブッククロッシングなど、本にまつわるイベントに関心が高まってきている。ブックカフェといって、本を楽しむカフェも話題になってきた。ブックカフェは、本にまつわるイベントの基地ともなっている。

この流れの中で、古本市を見てみよう。古本市と言えば、古本屋さんの組合が協働して一同に出店し、研究者や愛好家といった専門家が貴重な本を探す場だったり、安い本を手に入れる場というイメージがあるかもしれない。

近頃、話題になっているのは、古本屋さんだけではなく、一般人も出店している市である。「本屋さんごっこ」が楽しめるわけだ。お金儲けだけでなく、お客さんとのやりとりが大切にされている。

駅前やデパートの展示場だけでなく、地図を作ってまち全体を会場にし、まち歩きを楽しむ仕組みを作っている。本の業界のみならず、まちの活性化にも貢献する可能性がある。

ブックトークや朗読イベントなども開き、「買う」だけではなく「学び」の要素が加わっている。

 

【つながりたい】

この本にまつわるイベントが注目される背景を考えてみたい。

まず、本との出会い。書店では、ほとんどのお店が、広告PRに力の入った新刊本が並べられている。一日に何百冊もの本が出版されており、古い本は姿を消していく。だから、古本市では、扱う本に時代の幅があり、新刊の書店では手に取れない本と出会える。そして、その機会を逃したら、もう二度と出会えないかもしれないという一回性が醍醐味である。古本=中古品という感覚とは、また違ったものである。

二点目として、「生の情報」が求められていること。マスメディアによる情報よりも、口コミや信頼する人に取捨選択(セレクト)してもらった情報が重宝がられる傾向がある。古本市は、本好きの店主から、直接、本の話を聴くことができる。

三点目は、自発的なイベントであること。これは、利益を求める性質のイベントではない。利益を求めないというと批判をする方もいるが、主催する側が楽しむものでもあるのだ。サービスを受けることに慣れきった人たちにとって、自分たちで何かを作り上げるという喜びが求められている。

最後に、人との出会い。3月11日の震災以降、顔が見える関係を欲する声や地域への意識を強める人が増えているのは、強く感じているところである。特に、本は、人格形成にも関わるものであり、交流するにはうってつけの手段である。 64本まっち

 

【まちの活性化】

駅前広場やデパートの展示場ではなく、まち全体を会場として、まちに点在するお店の軒を借り、本を並べて販売する。その地図を作成し、まち歩きを誘発する。参加者は、それぞれ、まちの魅力を発見する機会にもなる。買い物だけのまちではなく、歩いて楽しめるまちへ。駅前だけでなく、人の流れを広げ、滞在時間を長くさせる効果も期待できる。

本を循環させることで、アイデアや考えを共有することになる。人と情報の集まるまちから、新たな創造が生まれることになる。軒先を貸すお店との協働(コラボレーション)で、集客への貢献だけではなく、ブランドイメージを高める可能性も考えられる。

そして何より、こういった出会いのあるまちに愛着を持ち、住みたいと思わせるような魅力の一つに育てば、というのが狙いである。

 

【成熟したまちへ】

柏は、便利なまちである。しかし、それだけでは物足りない段階に来ている。もう一歩先を目指し、教育や文化の成熟したまちへ、変わりつつある時期なのではないだろうか。

そんなことを考えながら、古本市を企画した。早速、「一箱ブックマーケット『本まっち柏』p.1」を、今秋、柏駅前で開催する。「本まっち柏」 とは、本とまち/本とマッチングを意味している。柏のまちを舞台に、本と人とが、さらに人と人とが、そして人とまちとが出会う。そんな願いが込められている。春には、柏のまちを歩きながら、各所に本と人とまちとの出会いを演出するp.2の開催に向け準備中である。

 

              柏まちなかカレッジ学長 山下洋輔

 

投稿者:

山下 洋輔

千葉県議会議員(柏市選出)。 元高校教諭。理想の学校を設立したいと大学院に進学。教員経験、教育学研究や地域活動から、教育は、学校だけの課題ではなく、家庭・地域・社会と学校が支え合うべきものと考え、「教育のまち」を目指し活動。著書『地域の力を引き出す学びの方程式』 2011年から柏市議会議員を3期10年を経て、柏市長選に挑戦(43,834票)。落選後の2年間、シリコンバレーのベンチャー企業Fractaの政策企画部長として公民連携によってAIで水道管を救う仕事を経験。 柏まちなかカレッジ学長/(社)305Basketball監事。 千葉県立東葛飾高校卒業。早稲田大学教育学部卒。 早稲田大学大学院教育学研究科修士課程修了後、土浦日大高校にて高校教諭。早稲田大学教育学研究科後期博士課程単位取得後退学。 家族 妻、長男(2014年生まれ)、長女(2017年生まれ)