以下、『BE-COM 12月号 vol.230』 (2011.12.1 BE・COMときわ通信発行)に掲載より引用
みんなでつくる健康のまち
友人が整体師になった理由
「治療後だけよくなる対処療法から、体の使い方や意識から変えていく予防という考えを広めたい」、私の友人がフリーターから整体師になった理由を聴いた。
彼は、飲食店で一生懸命に働き、充実した毎日を過ごしていた。しかし、激務の中、腰を痛めてしまった。その後、ありとあらゆる治療を試してはみたものの、治っては再発する繰り返しであった。
そこで、予防をテーマにした治療に切り替えなければならないと気づく。悪くなってから、その部分を治療するのではなく、生活や意識を改善し、体の使い方を変えていかなければならない。このように考え、彼は整体師として活動している。
整体師が、一方的に治療するのではなく、患者さんも自分自身を治したいと強く思わなければ、良くならない。患者さん自身の意識を変えていく手助けをするのが、治療だと言う。
対処療法から予防へ
時代は今、「対処療法」から「予防」へと変わりつつある。医学の世界でも、病気になったら治す対処治療が中心であったが、これからは、①病気にならないように予防する、②治療後に再発などを予防する、などの予防医学が、ますます重要になってきた。
死因の60%を占めているがん、心疾患、脳血管疾患の三大生活習慣病。その名の通り、生活習慣を改め、正しい知識をもってすれば、病気を防ぐことができるものである。しかし、現実には、これらの生活習慣病や肥満は増加するばかりだ。個人で予防し、自己防衛していかなければならない時代と言える。健康の維持・増進・治療後の予防など、これらは、ますます個人の自己責任での対応が求められ、自らの健康は自ら守っていかなければならない時代となってきた。
財政の問題
背景には、財政の問題がある。
柏市の65歳以上の人口は、約7万7千人(平成22年4月現在)と、10年前に比べ約3万4千人増加している。今後、団塊の世代が65歳を迎え、さらに増加していく。
高齢者の増加にともない、2割から3割に増えた健康保険の自己負担も、さらに増えると予想される。将来、健康保険そのものが、どうなるか予断を許さぬ状況である。
予防の普及によって、保険の給付利用者が減少すれば、財政の負担も中長期的に減らしていくことができると、行政は考えているであろう。
日本における高齢化は猛スピードで進んでいる(2035年には「3人に1人」が高齢者になる、と予測される)。急がなければ、介護・保険関連の財政がパンクしてしまう恐れがある。
予防に対する認識の現状
しかし、残念ながら、
予防という考えは定着していない。各種の講習会、健診の受診者数などの、予防事業への参加者数は全国的に伸び悩んでいるのが状況である。厚生労働省によると、介護予防事業(地域支援事業)を利用する65歳以上の高齢者は、全体の0.5%程度(2009年度)にとどまっている。民間の事業者やマスメディアも巻き込み、予防の考えをPRする方法を見直していかなければならない。
思えば、いざ、事が起きてからは慌てて対策をとったりするもので、何かが起きる前に、日頃からその予防に努めることは難しいものである。現在が健康であれば、なおのことである。
予防のために、行政が運動施設を整えたところで、そもそも運動習慣のない人が運動するわけではない。たとえば、運動習慣をつけてもらうなら、始めるきっかけ作りや継続しやすい仲間作りやプログラム作りなどが求められている。
支え合う地域社会に向けて
「一般市民は予防の考えを理解していない、啓蒙していかなければ」という考えが表れがちである。これは、上から目線で、一方的な押し付けである。
そもそも、予防という考えは、医師が一方的に治療するのではなく、患者自身も意識を変えて、より良い健康を目指そうというものではなかっただろうか。教育と同じで、一方的な教授では伝わらない。学ぶ者が、体験の中で気づいていく。そういった気づきが得られるような環境を準備していくことが大切である。
そのために、健康や福祉に関わる活動を体験してもらうことである。核家族化や地域での交流の希薄化から、今、様々な課題が浮かび上がってきている。一方で、コミュニティを再生していこうと活動している方々が増えてきた。大それた志がなくてもいいと思う。今後の仲間作りという軽い気持ちで、何かしらの活動に加わってみることをお勧めしたい。
近所に知り合いがいる安心感、会社とは違った社会との関わり、そして、人を支える喜び。これらは、お金を払っても得難いものである。
話を戻そう。行政に、介護・医療制度を任せっぱなしにしていては、財政も持たないだけでなく、自らの健康も保てない。世界最先端の医療が受けられる病院が近くにあるのは、たしかに、安心だ。しかし、できれば、そんな立派な病院にお世話になるような大病にかからないほうがいい。未然に防ぐ努力が必要だ。
健康のまちは、私たち一人ひとりが築いていくものである。「自分たちの地域は、自分たちで支えていくのだ」という意識が重要になってくるのである。
柏まちなかカレッジ学長 山下洋輔