以下、『BE-COM4月号 vol.246』 (2013.4.1 BE・COMときわ通信発行)に掲載より引用
【人口減少時代の行政運営のあり方】
千葉県知事選挙では、関心が集まらず、投票率は低く、危機を感じている。「投票に行かない人が悪い」、「政治家が悪い」という単純な問題ではなく、市民の社会参加について、考えていかなければならない時である。
私は、市民が行政の運営や政治に参加でき、参加していると実感できる仕組みを整えていくべきであると考えている。同時に、市民は、行政に任せっぱなしにし、お客様の姿勢で不平不満ばかりではなく、自分たちの自治体を自分たちで運営していくのだという意識や文化を育てていく。
柏市に住んでいるという意味だけの市民ではなく、民主的な社会を支えるという意味での「市民」の意識を育てることが大切である。
このような考えから、人口が減少していく時代の行政運営の在り方を考えていきたい。
【市民の声を反映した市政に】
人口が減少し、税収も減る一方で、福祉や施設維持にお金がかかり、公共施設やサービスを縮小していかなければ、自治体運営が厳しくなると予想さる。今までのように、市民が公共サービスを受けるお客様ではなく、自治体を運営していく一員としての意識を醸成していくことが必要である。
そのためにも、今後の行政は、市民と情報を共有し、市民の意見やアイデアを集め、合意形成をはかり、市民とともに自治体を運営してかなければならない。
政策決定までの一連のプロセスを可視化し、市民の社会参加意識を高め、住民の合意形成を築き上げるオープンな話し合いの場が必要になってきている。
【市民の声を聴きいたというアリバイ作り?】
今、市民の声は、議会や、直接、市役所に意見するというルートのほかに、対話集会やタウンミーティング、アンケートや意識調査が行われており、計画策定においては、有識者会議や審議会を経て、パブリックコメントが実施されている。
これらの方法に対して、疑問の声を聴かれる。
「ひょっとして、市民の意見を聞いたという自治体アリバイ作りであって、本当は市民に意見して欲しくないのではないか」
そんなことまで言う人もいる。実際に、柏市市役所に質問したところ、柏市としては、市民の声を聞こうと努力している姿勢は感じた。しかし、市民は行政を信用していないという状況が存在する。この市民の不信を払拭するためにも、合意形成から政策決定のプロセスを目に見える形で示すことが大切ではないであろうか。
【民主主義を支えるIT技術の進歩】
そこで、参考になる静岡県牧之原市の取組をご紹介したい。
牧之原市では、「地域津波防災まちづくり計画」を、市民の中から選ばれた委員とワークショップを開催して、策定している。子育て世代、障害のある方、高校生が会場に来にくいこと、専門家と市民の話合い、情報共有の在り方が課題となっていた。
そこで、専用のSNS(ソーシャルネットワークサービス)を活用した。SNSとは、ツイッターやフェイスブックなどの交流サイトである。委員によるワークショップに参加できない市民の声を補完し、市民参加型のまちづくりに取り組んでいると注目を集めている。
市民と情報を共有し、市民の意見やアイデアを集め、合意形成をはかり、政策決定のプロセスが目に見えるようになっている。
子育て世代、高校生、大学教授などの専門家を対象に、専用のSNSに登録してもらい、①「障がい者・高齢者・子どもたちが安全に避難するためにはどうしたらよいか」、②「きめ細やかな弱者対策をどうすればできるか」、③「みんなで助かるための避難アイデアを考えよう」、④「自分で自分の命を守る意識を高めるためのアイデアを考えよう」、⑤「みんな一緒に避難するための地域や家庭のルールをどう作るか」の5つのテーマでアイデアを募集した。
誰かが提案したら、そのアイデアに対して、他の市民が意見を出し合う。パブリックコメントのように、書いて終わりではない。しかも、市民と職員のやり取ではなく、公開されて参加者同士の話合いが生まれる。
この結果、牧之原市では、市民の社会参加意識が高まり、行政に対する不満だけでなく建設的な内容が寄せられるようになったそうだ。
また、汚職事件で行政の不信が広がった韓国のソウル市でも、このようなSNSを用いた市民参加型の計画策定を実施したことで、信頼が回復したという事例もある。
【対話によるまちづくり】
SNSを活用したおかげで、ふだん、話し合いに参加できない子育て中の母親や障害のある方、高校生の意見も集めることができた。IT技術の進歩の賜物である。しかし、これは、あくまで方法であって、話し合う文化がなければ成り立たないものである。
牧之原市では、男女共同参画サロンという話し合いの場を育ててきた土台があって、この試みが成功した。IT技術も活用しながら、様々な方法を研究していきたい。
対話によるまちづくりを進めるために、柏まちなかカレッジのような対話の場である市民大学も大切だと、あらためて感じた。
柏まちなかカレッジ学長 山下 洋輔