【バングラディシュの概要】
バングラディシュとは、ベンガル人の国という意味である。九州くらいの広さの国土に、約1億8千万もの人が住む。詩人タゴールが、「黄金のベンガル」といったように、肥沃な土地であった。
イギリスの植民地政策により、1947年に東パキスタンとしてインドから分離された。民族や文化の違いのある地域が、インドをはさみ、同じ政府を形成することは難しかった。1971年、パキスタンから独立し、バングラディシュを建国する。複雑な政治情勢を、いまだに引きずっている。私が訪問した3月にも、ハルストと呼ばれる抗議ストライキで、街は厳戒態勢であった。 バングラディシュは災害の国でもある。洪水、台風、竜巻、地震など、災害のデパートのような国だ。マラリア、フィラリア、下痢、狂犬病など、感染症の種類も多様だ。水資源の不足も深刻である。
政治、自然環境、伝染病など、不利な条件が重なってはいる反面、可能性を秘めた国でもある。
【社会課題を解決するための仕組み】
バングラディシュは、世界で最も貧しい国の一つとして知られている。しかし、実際に、首都ダッカを歩いてみると、「貧しい」というのは固定観念なのだと思い知らされた。今、バングラディシュは、目覚ましい経済発展が進行中である。高価な家具を買い求める人、高価な車を運転する人、おしゃれなカフェ、物価が安いと思い込んでいたら痛い目に合った。
人口が多く、市場が大きい。アジアンハイウェイで、中東から中国がつながれば、ダッカはアジアの中央となる。世界的な組織の有望な若手が、バングラディシュに派遣されている。以前のサンフランシスコや上海のように、バングラディシュのダッカが、登竜門となっているように感じた。
裕福な人が多いが、貧しい人が多い。この経済格差の大きさは、深刻である。政治・行政が機能していない。この現状を打開するために、政府は期待できない。政府ではなく、社会課題の解決に取り組むNGOへの支援が集まっている。その中で、2つの組織を紹介したい。
まず、ノーベル賞も受賞したグラミン銀行。農村の女性に、低利で、小規模のお金を貸し、手に職を付けさせ、自立を支援した。今では、金融だけではなく、病院や学校なども経営している。
次に、ブラック(BRAC)。台風被災者の支援活動、難民支援、戦災復興の活動から、バングラディシュ農村復興支援委員会を設立。現在は、年間予算は350億円以上、対象とする住民1億1000万人、スタッフ11万人、世界最大のNGOである。医療、福祉、教育において、政府に代わって役割を果たしている。
【教育の課題と改革】
国づくりは人づくりから。格差を次の世代に引き継がないよう、すべての子どもに教育の機会を作らなければならない。グローバル社会で生き抜くためにも、英語とインターネットを身につけることから始められている。
世界銀行やブラックは、NGOを支援し、政府に代わって学校を建設や運営や教員研修を実施している。さらに、中退した生徒を支援する学校や、思春期の女生徒向けのプログラム、生徒同士が学び合うプログラム、船を校舎にするなど、社会・文化背景をふまえた教育実践が行われている。
今までは、農村部での教育への支援が行われてきたが、これからは都市部の貧困への取り組みが始まってきている。
【医療の課題】国立のダッカ大学病院を視察した。医療費は、ほとんどかからないとのこと。廊下にもベッドが置かれ、看護師は足りない。患者の世話は家族が行うので、その分さらに大勢の人があふれる。建物は立派だが、人を育てることが急務だと、日本大使館の医師から聞いた。特に、公衆衛生についての考えが浸透していない。体の芯から公衆衛生を学び、看護師の地位を高めてくれるような看護師養成学校があれば。そんな学校を支援あるいは設立してくれる日本企業•起業家•NGOが期待されていた。
【日本に生きる私たち】
高度経済成長期の日本は、現在のバングラディシュのようだったのではないかと思う。私は、バングラディシュの未来を考え、指摘したい点が沢山あった。たとえば、いたるところで行われている下水道配管の工事。老朽化した時を考え、しっかりとした都市計画を立てておくべきだ。教育も、しかり。
バングラディシュには、日本から支援や援助が大きい。その支援が適切かどうか?もっと有効な方法はないか?私たちは、もっと口を出していくべきではないだろうか。支援の大きさに比べると、日本の影響力は大きくない。情報発信も含め、再考の時期に来ている。
市場の大きさ、アジアの中心という位置、これから整備されていくインフラ。バングラディシュでビジネスや活動を展開するのは、チャンスである。日本で蓄積された経験を、活かすことができる。日本からの発信という意義もある。
一方で、共通した課題もある。それは、都市の貧困と広がっていく格差。海外に出ることで、自分たちの身の回りの課題に気づき、客観視することができる。この気づきが、かけがえない重要なものでもある。
柏まちなかカレッジ学長 山下 洋輔