以下、『BE-COM5月号 vol.270』 (2015.5.1 BE・COMときわ通信発行)に掲載
【学校統廃合に向けた流れ】
少子化で、人口減少が進み、国は次々と対策を打ち出している。
2015年1月、文部科学省は、教育委員会が小中学校の統廃合を検討する際の指針となる「手引き」を約60年ぶりに改定した。中学校で3学級以下の学校は統廃合を速やかに検討する必要があると明記。通学範囲の条件も緩和した。
2015年度の予算編成では、財務省は、公立小学校の1年生で導入されている「35人学級」を見直し、1学級40人体制に戻すよう文部科学省に求めた。教育上の明確な効果が見られないと主張し、40人学級に戻せば、必要な教職員数が約4千人減り、人件費の国負担分を年間約86億円削減できるとの試算を提示する。文部科学省や教育関係者などの反発を受けて撤回することにはなったが。
現在の制度では、子どもの数が減れば、学級数は減り、学校が減っていくことになる。40人学級に戻すことで、学級数は減り、学校が減っていくことになる。
【学校統廃合のメリット・デメリット】
昨年11月、京都市教育委員会を視察。学校統廃合について調査した。京都市では、昭和50年代から学校の統廃合が議論され、地元主導で円滑な統合が実現している。68校あった学校は、平成26年度現在で17校。
もともと京都市の学校は、近代教育制度の始まる前から、地域住民の手で設立され、地域の子どもは地域で育てるという意識が高い。学校への思い入れが、他の自治体より強い。それでも、子どもたちの教育環境を考えるPTAなどの声もあり、学校の統廃合を進めてきた。
京都市は、学校の統廃合に関して、地域の意向を尊重するという方針である。小規模校の問題を考える冊子を作成し、小規模校や学校統廃合のメリット・デメリットを提示し、地域と話し合ってきた。
京都市は、2014年度から小中一貫教育に取組み、現在では全学区で導入されている。地域の力を活かしたキャリア教育などで、住民からの評価は高い。学校の評判で、子育て世代の流入にもつながっているという。
学校跡地には、国際マンガミュージアムや漢字博物館など、芸術・文化施設や高齢者福祉施設として活用されている。学校跡地は、様々な可能性があるという声もある。
一方で、学校は地域の核であり、学校がなくなると地域の衰退が進んでしまうという指摘がある。児童生徒の通学距離は延び、バス通学も必要となる。地域とのつながりも薄れていく懸念もある。小中一貫教育の効果の検証も必要である。実際に、統廃合で学校を失った地域の人口は減少している。
学校跡地の活用は、地域活性の切り札のようにも持ち上げられるが、安易な活用は無駄なハコモノを増やしてしまう可能性もある。
【小規模の良さを活かした学校】
柏市では、「小規模校の特色を活かした個別教育について」に取り組んでいる。
柏市には、マンション建設や住宅地開発で急激に児童生徒数が増える学校がある一方で、全校生徒が数十人という小規模校も存在する。そこで、柏市では、児童数の少ない手賀東小学校に、小規模特認校制度を活用し、他学区からも児童の受け容れを行っている。
小規模校に通わせるのは、大勢の中でもまれる機会に恵まれず、全国的なレベルに遅れてしまうのではないかという不安が持たれる。
ただ、小規模校ならではの強みがある。少人数クラスで、教員の目が行き届き、きめ細やかな指導が可能になる。やはり、担任する児童生徒数が少ないと、教員は一人一人に手厚くなり(負担も軽減され)、じっくりと子どもに向き合うことができる。授業も、黒板に板書して、学習内容を伝達する一斉授業ではなく、児童生徒に問いかけながら、一緒に学んでいく授業が可能になる。「アクティブラーニング」や「学びの共同体」といった能動的な学びは、今、世界の流れで、日本の学校でも求められている最先端の授業形態である。
小規模校は、学校全体が家族的な雰囲気がある。学年を越えた交流もある。核家族化が進み、世代を超えた交流が持ちにくい都市部とは一味違った、地域の方との交流も期待されている。
自分たちの母校がなくなってしまうのは、コミュニティ・アイデンテティや地域への愛着という、これから時代に必要とされる地域資源を損なうことになる。
また、競争も激しく、勢いのある都市部の大規模校がある一方で、少人数でじっくりと学び合う小規模校が存在するというのは、多様な教育体制が整った、深みのある自治体であると、私は考える。
【地域の施設と同居した学校】
学校の統廃合により、子育て支援センター、多世代交流のサロン、ブックカフェ、多文化共生の文化施設、起業家支援センター、フリースクールなど様々な廃校活用の事例が注目されている。たしかに、これらの取り組みは素晴らしい。しかし、私は納得出来ない。
学校を廃校にする必要はあったのか。災害時の避難場所、投票所、そして何より地域の拠点としての機能は、引き継いでいけるのかどうか。素晴らしい取り組みだとしたら、学校が存続していた時に、子どもたちの学びと相乗効果を生み出せる形で実現させるべきではなかったか。
今、学校施設と公共施設を一体化する動きが広がっている。
公民館、児童館、保育所、老人福祉施設、体育館、図書館など、学校を中心に、地域の幅広い年代の住民との交流が生まれ、子どもたちの成長のも好影響が期待できる。
野田市立岩木小学老人デイサービスセンターを視察した。小学校の空き教室を活用し、老人デイサービスセンターとして活用されている。昼休みには小学生が遊びに来るなど、定期的に小学校と交流している。
専門的なサービスだけでなく、高齢者の居場所としても重要である。小学校は、歩いて通える場所にあり、地域コミュニティの核として存在する。高齢者は小学生から元気をもらい、小学生は高齢者から知恵や経験を学ぶ。核家族化した地域では、特に、貴重な機会である。
文科省によると、こうした複合施設の小中学校は、平成26年5月時点で1394校あり、前回調査した1996年と比べ3倍に増えた。今後、ますます、この流れは加速するだろう。
廃校を斬新なアイデアで活用することも魅力的ではあるが、財政が厳しいのなら、余計な施設は作るべきではない。廃校ではなく、学校は学校として活用できるようにして欲しい。
学校の統廃合という議論だけでなく、自治体の持つ公共施設の全体像と住民のニーズを総合的に把握し、管理計画を立てていくことが求められている。学校と公共施設との一体化は、行政の効率化だけではなく、子どもの学びやコミュニティ形成にも有効な手法であるのではないか。
柏まちなかカレッジ学長 山下 洋輔