以下、『BE-COM7月号 vol.272』 (2015.7.1 BE・COMときわ通信発行)に掲載
【柏の可能性】
これからのカッコいい街は、環境や多様性が鍵となると予想している。
たとえば、地産地消(Farm to Table)のレストラン、ファーマーズ・マーケット(農家市)、素敵なパン屋、おいしいワインやお酒、こだわりのカフェ、信頼できる食料品のあるスーパーやお店、自動車より自転車や歩行者を優先する街路、大量生産よりもこだわりの手作り品、競争よりも共生など、生活の質を大切にしたまちが注目されるようになってきたと感じる。
柏は都内まで電車で30分圏内に位置する一方で、手賀沼をはじめとする豊かな自然環境が近くにある。柏駅前には個性的な飲食店が集積する一方で、農業も盛んである。一地方都市にすぎない柏には、都内の都市には真似できない強みがある。
環境先進都市とも言われ、全米で住みたいまちに選ばれているポートランド(オレゴン州)が注目されている。私は新婚旅行をポートランドに選び、街を観察してきた。規模や国が違うが、柏の今後を考える上で、面白いまちだった。その中で、得られたアイデアを紹介していきたい。
【食と農のまち】
柏市は、農業が盛んで、市内では豊富な種類の農産物が作られており、さらに、直売所や朝市、収穫祭や飲食店を巻き込んだイベント等も多く催され、農業者だけでなく様々なジャンルの人々が関わりながら、活動が行われている。
柏産の農産物とそれらを使った食品や料理をブランド化していく動きも出ている。
体験農園の動きや、東葛六市レストランサミットといった市民の主体的な食育活動が、柏市内外からも高く評価されている。
生産者と消費者をつなぐ飲食店や交流の場となる農家レストランや、地産地消が飲食店も増えてくるだろう。ツリーハウスや竹で作られたアトラクション、料理教室や音楽ライブなど、子どもたちが楽しめる公園やイベントも企画していきたいと考えている。
親子で遊び、自然体験を楽しめる体験農園。高齢者の経験や農村の暮らしを伝える場にもなる農家民泊。オリンピック前に、観光政策として、エコツーリズムを打ち出すべきである。
【歩行者優先のまち】
柏駅の規模にしては、柏駅前の道路は貧弱だと、これまで言われてきた。しかし、人口が減少し、一昔前と比べると車の台数は減っていく。これまで柏駅前の弱点だった貧弱な道路は、強みに変えていくことができる。人が歩くのに、ちょうどいいのだ。
ハウディモール(柏駅前通り)が、平日も歩行者天国になる。段差もなくなり、ベビーカーや車いすも通行しやすくなり、木陰のベンチで一休みもできるよう計画が進んでいる。旧水戸街道沿いの歩きにくい歩道も、バリアフリー化に向け、整備される。
歩行者優先のまちづくりは世界の潮流となっている。ニューヨーク、コペンハーゲン、ミュンヘンなどでは自家用車を締め出し、人間のためのストリートが生まれている。
歩きたくなる街になれば、商業の活性化だけでなく、医療費も減る。インターネットではなく、街では生きた経験が得られ、文化が生まれる。
バス・タクシーや運搬の車の扱い、自転車の通行など、まだまだ課題はあるが、街と行政が一体となった取組みが注目されている。公共交通の整備や電柱の地中化だけでなく、一方通行や車両制限など、不便になることも検討しならない。市民が関心を持って、話し合いに参加することで、より良い街に育っていくのだと思う。
【自転車が快適に乗れるまち】
自転車は、健康的で、環境負荷も低い移動手段である。6月から改正道路交通法が施行され、マナー違反の自転車利用者、放置自転車の話題が中心となり、自転車の環境整備についての話し合いが停滞してしまうことを危惧している。歩道は歩行者が優先され、車道では自動車の邪魔となり、現在、自転車は走りにくく、居場所が無いのが現状だ。
この改正道路交通法を機に、安心して歩ける歩道や、自転車を安全に乗ることができる環境整備も進めたい。
柏駅から、自転車ですぐの距離に、手賀沼があることは、柏市の魅力である。しかし、道が分からないという声も多くお聞きする。手賀沼や利根川には、走りやすい道がある。自転車道などを設置して、これらの道をネットワーク化することは、非常に意義がある。柏駅東口から手賀沼までの道路に、自転車道や自転車ナビマークを設置するなど、自転車が走りやすい道をネットワーク化できるよう働きかけている。
【環境への意識】
環境を重視していることが、ビジネスの上でも、選ばれるポイントとなってきた。オーガニック、顔の見える地元産食材、不正でない、地域経済、まちづくりのためになる。そういった点が、評価されるようになっている。
建物も新築するのではなく、手作りで改修(リノベーション)するのが、カッコいいと思われるようになってきた。
【生活や仕事など智恵のある生き方】
環境に配慮した生活と言っても、都市の利便性を放棄するわけでもないし、我慢して節約するわけでもない。環境を意識する方が、カッコいいというライフスタイルが生まれている。
大多数ではないが、これからの社会を切り拓いていく感覚を持った人たちが集まってくるまち。アートや音楽などが身近にあるまち。地域で教育を支えていくまち。
お金をかけずに、食べ物や住まい、仕事、文化、教育、生活、コミュニティの質を高める知恵が求められている。
柏まちなかカレッジ学長 山下 洋輔