【埋め立てられる湿地帯】
柏市の大青田は、平成23年に柏市が策定した「生きもの多様性プラン」で、生きもの多様性重要地区に指定され、保全を推進されると明記された土地である。環境省や千葉県が絶滅のおそれがあると指定する動植物も確認され、生物が多様で、貴重な場所だ。
この豊かな自然の残る大青田の湿地帯の埋め立てが進んでいる。柏市は、豊かな自然を守ると計画を立てながら、埋め立てに対する法的な規制はなく、埋め立てへの許可を出しているという整合性のないことをしている。
【谷津田とは】
谷津田(やつだ)は、谷地にある水田のこと。水田だけでなく、雑木林、畑や草原、雑木林、杉林などに囲まれて成り立っている。雨は森に蓄えられ、谷ににじみ出し、湧き水となる。この水をみんなで大切に使うために、ため池が作られた。その豊富な湧き水を利用して稲作が行われてきた。
また、谷津田の入口には必ず集落がある。集落の人々は、谷津田から得られる落ち葉や間伐材などの資源を大切に使ってきた。人々の自然に対するほどよい関わりが、生物の多様性を育んできたのだ。
谷津田は、生物多様性の観点からだけでなく、歴史や景観の観点からも重要な文化的遺産である。しかし、今、この谷津田の埋め立ても進んでいる。
【残土と産業廃棄物】
市内の資材置き場周辺の住民から、「1日中、トラックが出入りして、振動や騒音がひどい」、「トラックの交通量が多く危険」、「土ぼこりがひどい」、「廃材を燃やすので、洗濯物が干せないし、気分が悪くなり、救急車で運ばれた人もいる」などの声を聴いた。調べてみると、農地のまま資材置き場として利用されている所もあった。
柏の豊かな土地の土を他所へ持ち出し、そのあとに残土や廃棄物を混ぜながら埋めている業者がいたのだ。
行政や関係機関に相談しても、法の抜け道を熟知した業者が、グレーゾーンの範囲で行っているようで、解決に至らない事例となっていた。沼南地域の谷津田などがターゲットにされている。
【市議会にて提案】
昨年夏の柏市環境審議会にて、委員から「豊かな自然の大半を農家が水田として守っていると主張する一方で、相続で手放す事例も少なくなく、ここから開発に進めば温室効果ガス抑制にも影響が出る」という意見が出たそうだ。
谷津田は、生物多様性という面では豊かな土地だが、農業生産の面では効率の悪い土地となる。農地として維持していくことが難しく、現在の状況に至っていると言える。
埋め立ては民間での話し合いと言うが、先人が守り伝えてきた柏の豊かな自然でもあり、地球規模の環境問題でもあり、行政としての責任も大きい。近年、日本各地で見られる災害や異常気象も、市民個人だけではなく、社会をあげて取り組むべき問題であると言える。この埋め立ては、個人の問題だけではなく、社会の構造的な課題なのだ。
柏市として、自然環境と市民の生活環境を守るという強い姿勢を示し、対策を講じていかなければならない。教育や観光の資源として、あるいは、障がい者や高齢者の就労の場としてなど、市民団体や企業、大学と連携して谷津田を保全していく仕組みが必要だ。行政は、担当の環境部だけではなく、市役所全体、そして様々な関係者を巻き込んで取り組むべき課題だ。
私は、柏市議会にて、豊かな谷津田、自然を守るための具体策や、まだ埋め立てられていない谷津の買収、残土と産業廃棄物などを、柏市に問い質した。
【市民の声が、予算や制度に反映される】
昨年12月、市内の谷津田の現状を把握するための自然環境調査に560万円を、柏市は予算に反映。これは、昨年9月の議会で、私が質問した「豊かな自然が残る大青田の湿地帯埋め立て」に対して、市当局が具体的に応えたものと言える。
また、この3月の議会質問では、谷津田を保全する仕組みが示された。農業を営むことが何よりもの保全という考え方を柱に、谷津田での農業に20円/㎡の奨励金を支払うことになった。耕作放棄地でも、復田や体験農園、環境学習などのフィールドとすることで、10円/㎡の奨励金を支払う。
もちろん、すべての谷津田ではなく、生きもの多様性プランなど重要地区候補地に限られ、谷津田保全協定を締結しての実施ではある。しかし、市と地元とが話し合い、実際に予算があてられ、制度化されたことは大きい。
残土と産業廃棄物の問題では、「柏市土砂埋め立て等規制条例の一部改正」や「産業廃棄物不法投棄関し事業」が実現した。
ただ、ある場所で解決したように見えて、別の場所に移って繰り返されている可能性がある。ヘリコプターを使っての監視パトロールなど、柏市は徹底的に取り組む姿勢を示すことが、不法行為を未然に防ぐことになると考える。
まだまだ喜んでいる場合ではなく、問題解決のスタート地点に立てたくらいのもの。これからが本番だ。引き続き、自然環境と市民の生活環境を守るため活動していかなければと思う。
『BE-COM4月号 vol.282』 (2016.4.1 BE・COMときわ通信発行)に掲載