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オランダのトータルフット-多様性が育てる個性

オランダのトータルフット-多様性が育てる個性

以下、『BE-COM 2月号 vol.207』(2010.2.1 BE・COMときわ通信発行)に掲載より引用

【ワールドカップ開幕】

サッカーのワールドカップが、今年の6月に南アフリカで開催される。対戦組み合わせが発表され、評論家の解説が飛び交っている。日本は、オランダ・カメルーン・デンマークと同じEグループだ。私は、個人的にオランダのサッカーが好きである。

サッカー強豪国には、それぞれのスタイルがあった。お国柄を表しているようで、興味深い。ブラジルには、ドリブルなど多彩な個人技。イタリアには、カテナチオと呼ばれる堅守。フランスには、シャンパンサッカーと呼ばれる華麗なパス回し。そして、オランダは、トータルフットと言って、選手が自由にプレーするのが特徴だった。子供の頃に、みんなでボールを追いかけた楽しさを思い出させてくれる。

チームの目的達成のために、監督の指揮により、選手が自分の役割を果たす。サッカーは、組織的な競技である。そのような競技において、オランダは個性を尊重したサッカーで魅せる。オランダのトータルフットは、組織と個性とが両立するヒントを教えてくれる。

 

【私の野球監督経験談】

組織における個性を考えるために、私事であるが、高校で軟式野球部の監督をした経験を紹介したい。私は、高校教諭だった時、監督に就任することになった。実は、私、野球経験がまったくない。高校生にもなると、部員はしっかりと野球を身に付けて入部してくる。そこで、私は、野球を指導するのではなく、自律したチーム作りに専念した。

まず、監督として、野球経験者、左利き、長身、運動神経の良さそうな生徒をスカウトした。未経験者を中心に、投手層を厚くした。次に、練習の出席率を上げるなど、部としての基本を立て直した。実際は、校外でのグラウンド練習のため、野球を出来る時間が少ないということに気付いた。冬場には、ほとんど練習にならなかった。そこで、校内での基礎練習を自主練ではなく、公式的に行った。そして、ミーティングに重きを置くようにした。その結果が、「サインの出さない監督」のスタイルである。

頑張っているが、試合には出られない生徒にサインを任せた。どの選手もサインを出せるようにミーティングで打ち合わせた。考える野球ができるようになり、アドリブでのファインプレーも生まれるようになった。関東大会出場も果たし、そこでは生き生きとした生徒の表情が注目を集めた。

生徒たちは、強制的に入部させられたわけでも、練習させられているわけでもない。すべて、自分の意思で野球しているという気持ちがある。監督が、勝つ方法を教え込むことはしない。自分たちで研究し、試行錯誤し、成功したり、失敗したり。成功しても、忘れてしまったり。2年と少しの限られた部活動で、たしかに効率は悪い。しかし、私は、それでいいと思う。実際に、自分の考えを試す機会というのは少ない。現代社会では、失敗してしまうと大変だという雰囲気がある。そういう意味で、生徒たちには、失敗を恐れず、自分たちの個性的な野球を創っていってもらいたいという願いがあった。

 

【オランダの教育】

オランダのトータルフットにも、オランダの教育哲学が反映されていると感じる。オランダの教育は、一人ひとりを大切にするのが特徴だ。この背景には、17世紀にスペインやカトリック教会から独立し、個人の自由を尊重し、違いを寛容に受け入れる態度を育んできた歴史がある。移民を受け入れ、多様な社会を築いてきた。

現在のオランダの教育は、学校の多様性を歓迎している。一定の生徒が集まれば、自由に学校を設立することができる。それぞれの学校は、独自の教育方法や建築物、宗教的背景を持ち、個性的である。校区がないので、保護者はわが子のための学校を探す。入学すると、生徒も保護者も学校運営に参加する。地域や教師が協力し、みんなで作る学校である。学校は、校長先生を中心にしたコミュニティだ。校長先生は、教師であると同時に、学校を経営している。校長になりたければ、資格を取ると若くても校長になれる。校長は、よく働き、授業もする。たいていは、ラフな服装で、気さくである。「偉い」人ではなく、やりたい人が校長になっているのだ。

このような個性を生かした適材適所が実現できるのは、多様な価値観のお陰といえる。学歴の優劣や職業の貴賎といった考えに囚われていない。一人ひとりの個性を伸ばす力が働いている。そのためには、一つの物差しだけでは計ることができない。多様な価値観で、一つの可能性を見出していくのである。見出された個性は輝きを増し、他の個性を伸ばしていく。

そんな個性を伸ばし合う連鎖の広がりを、オランダのサッカーを観戦しながら感じ取れるのではないか、と楽しみにしている。

 
( 山下 洋輔 )

 

 

 

投稿者:

山下 洋輔

千葉県議会議員(柏市選出)。 元高校教諭。理想の学校を設立したいと大学院に進学。教員経験、教育学研究や地域活動から、教育は、学校だけの課題ではなく、家庭・地域・社会と学校が支え合うべきものと考え、「教育のまち」を目指し活動。著書『地域の力を引き出す学びの方程式』 2011年から柏市議会議員を3期10年を経て、柏市長選に挑戦(43,834票)。落選後の2年間、シリコンバレーのベンチャー企業Fractaの政策企画部長として公民連携によってAIで水道管を救う仕事を経験。 柏まちなかカレッジ学長/(社)305Basketball監事。 千葉県立東葛飾高校卒業。早稲田大学教育学部卒。 早稲田大学大学院教育学研究科修士課程修了後、土浦日大高校にて高校教諭。早稲田大学教育学研究科後期博士課程単位取得後退学。 家族 妻、長男(2014年生まれ)、長女(2017年生まれ)