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デンマークのフォルケホイスコーレと民主主義

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以下、『BE-COM 3月号 vol.207』(2010.3.1 BE・COMときわ通信発行)に掲載より引用

デンマークのフォルケホイスコーレと民主主義

今年の6月に南アフリカで開催されるサッカーのワールドカップで、日本と同じEグループのデンマーク。この国のサッカーは、「ダニッシュ・ダイナマイト」と呼ばれ、古くから強豪として知られていた。1992年の欧州選手権では、ユーゴスラビアの出場資格取消しのため繰上げ出場し、優勝を果たしている。実は、予選敗退したデンマーク代表は、バカンスに出かけていた選手が多く、十分な準備ができないまま臨んだ大会だったという。

 

【デンマークの魅力】

デンマークに留学経験のある後輩が、「デンマークでは、仕事は5時で終わります」と目を輝かせて語ってくれた。家族で夕飯を囲み、ゆったりと一緒に時間を過ごし、語り合う時間・空間が大切にされている。一般人が、セカンドハウスやヨットを所有するのは一般的で、個人の時間を楽しんでいる。出産のために1年間の有給休暇があり、女性の就業率は世界トップクラスである。経済力は強く、国民一人あたりのGNPは世界一である。失業率は低く、子どもの自立も早い。

福祉が充実しているが、これは国民の支持があって実現している。福祉サービスの低下を懸念し、減税の法案が反対される。税は、自己申告制だが、ごまかさないのが普通である。投票率は、90%以上。地方議員は、他に職を持つボランティアである。

 

【デンマークの教育】

PISAの調査では、デンマークの学力は低かった。しかし、教師は、学力よりも、目に見えない人間形成が第一と考えている。このように、試験は重視されておらず、小学校の中学年まで試験はない。

デンマークの教育は、一人ひとりを大切にする。社会制度として、学級少人数制、学費無料、親が学校を作る権利、その他の公的な保障が充実している。一人ひとりの違いを受け入れ、のんびり学んでいく。

個を重んじ、自由な校風の学校では、生徒指導ができないのでは?日本の教育者の疑問に答えるため、私の友人がデンマークのある義務教育学校で聞いた校長の話を紹介したい。

いじめ対策では、「いじめないゾーン」というメッセージの書かれたTシャツを着て、750人が手をつなぎ、市長と面会。市長、校長、生徒代表、教員が立会い、「いじめをしない」と宣言した。同時に、研修を開き、専門家も招く取組みも行っている。教師は、いじめのない環境づくりを整えている。

授業の進行を妨げる生徒には、教員が繰り返し注意し、それでも聞き入れられない場合は校長が指導する。生徒が授業を妨害する理由や生徒を取り巻く環境の問題について一緒に考える。対話によって、解決法を導く。保護者を呼ぶなど、あくまで対話を重視する。生徒指導は、行動に対する批判であり、生徒の人格に対するものではないという考えだ。

これらは、訪問先の校長の経験であり、学校によって方針は多様である。ただ、教育の考えがブレていない、という点で共通している。

 

【フォルケホイスコーレとグルントヴィ】

デンマークの教育には、グルントヴィの思想と彼が提唱したフォルケホイスコーレが背景にあると指摘したい。フォルケホイスコーレとは、民衆の学校と訳すことができる。語学や農業技術、デザインや音楽、演劇のワークショップなど多様な科目が用意されている。期間は、数週間から1年間と学校によって違う。試験はなく、学位や資格も与えない。全寮制であり、寝食、勉強、余暇時間をともにし、人間形成と社会的な能力を身につけることを目的としている。私も、日本の教員として、生徒ともに寮生活を送った経験があるが、民主的なプロセスや人間関係など社会的能力はもちろん、人間的な成長を楽しみにしていたことを思い出す。

宗教革命後、宗教に代わって人々を結び付けたのは「国民」という考えであった。詩人であり歴史家でもあるグルントヴィは、デンマーク国民の形成をフォルケホイスコーレの目的にすえた。カリキュラムでは、民主主義的思想とともに、デンマーク語、ことわざ、詩歌、童話や伝承を学習し、国民の意識を促進した。

この学校は、農民解放運動に支持されて、デンマーク中に広まった。地方の農民たちは、この学校で、社会意識に目覚め、政権交代の原動力となった。デンマークが豊かで、民主主義が浸透し、社会福祉が整い、弱者に優しい国になったのも、この学校によるところが大きい。そこで、グルントヴィは、近代デンマークの父と呼ばれている。

 

【フォルケホイスコーレから学ぶこと】

フォルケホイスコーレは、移民、途上国との連携、地域共同体、進路支援、環境問題など、現代的課題へのヒントを投げかけている。

他者との生きた言葉のコミュニケーションを大切にしたグルントヴィの思想は、自然と人間、民族や階級の対立に有効である。移民の増加に対しては、言語や生活・文化の学習の場としての役割が期待される。途上国には、学校の民主的運営や地域の自立を伝えてきた。自分との対話という意味で、悩みや人生を考える場ともなる。地域コミュニティが崩壊した現在、新たなコミュニティを築いている。

 

 

 

( 山下 洋輔 )

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投稿者:

山下 洋輔

柏市議会議員。柏まちなかカレッジ学長。元高校教諭。2児の父。 教育学研究や地域活動から、教育は、学校だけの課題ではなく、家庭・地域・社会と学校が支え合うべきものと考え、「教育のまち」を目指し活動。著書『地域の力を引き出す学びの方程式』 (社)305Basketball監事。 千葉県立東葛飾高校卒業。早稲田大学教育学部卒。 早稲田大学大学院教育学研究科修士課程修了後、土浦日大高校にて高校教諭。早稲田大学教育学研究科後期博士課程単位取得後退学。 教育コンサルタント山下洋輔事務所設立。 2011年9月から柏市議会議員。 家族 妻、長男(2014年生まれ)、長女(2017年生まれ)