以下、『BE-COM 2月号 vol.220』 (2011.2.1 BE・COMときわ通信発行)に掲載より引用
フューチャーセンター-対話による課題解決の場
【隠れた善意が表出】
「伊達直人」と名乗り、ランドセルなどの寄付が相次いだタイガーマスク運動。個人の善意がまたたく間に広っていった。私の身のまわりでも、何とか社会を良くしたい、社会貢献に関わりたいと考える人が増えてきた。政界や財界への不満や失望を強調するばかりではなく、自分たちの身近なところから、少しでも世の中が良くなるように働きかけようという機運を感じる。
このような一人ひとりの善意を表に出せるよう、何かきっかけを作ることができればと考えている。一つのアイデアとして、フューチャーセンターという仕組みを試みた。
【フューチャーセンターとは】
事業仕分け、シンポジウム、タウンミーティングなどが多く開かれている。しかし、必ずしも政策への連結がうまくいっているわけではない。昨年、柏市でもタウンミーティングが行われたが、不満や陳情があふれていたと聞く。課題を分析し、指摘することは大切である。しかし、その解決を行政任せにしていては、限られた財源の中では限界がある。結果的に、解決せず、再び批判の対象となる。悪循環だ。
そんな中、オランダ・ノルウェーなど欧州で、企業やNPO、行政などで効果をあげているフューチャーセンター(以下、FC)に注目した。FCでは、複数の省庁の担当者、民間企業の担当者、市民などが集り、分け隔てなく議論をし、認識を共有し、革新的な政策コンセプトを立案している。FCとは、組織が積極的、協力的、そして体系的な方法で、未来の準備を手助けする、ファシリテートされた“場(仕事と会議の環境)”の総称である。組織(行政・企業など)を活性化し、対話を使って問題全体を俯瞰し、未来の課題を解決していく装置とも言える。
このFCは、たいてい行政から委託された第三者機関である。中立な立場を保つ。話合いが長期間に及び、首長が交代した場合でも、継続して進められる。
今のところ、日本では富士ゼロックスなど数社の民間企業でしか行われていない。現段階では、部署を横断した話合いの場や研修の場として機能し、そこから新たなプロジェクトが生まれることも期待されている。
【討論の限界と対話の可能性】
本場のFCでは、複雑な課題解決のために、関係者が召集され、缶詰状態で話合いをさせられる。決して、簡単なものではない。話合いが、長期間に及ぶことも多い。裁判が二者間による討論とすると、FCは複数間での対話とイメージして頂きたい。
裁判や議会は、基本的に、討論である。相手の主張の欠点や弱点を探して、反論を組み立てながら話を聞き、自分の考えが正しいことを主張していく。どちらが正しいかという議論になり、両者の主張がぶつかり合う。これに対しFCは、対話を基本とする。相手の主張を理解しようと話を聞きながら、価値観を探り、共通点を見出していく。様々な立場から考え、アイデアを持ち寄り、新しい選択肢を見つけようとする。
国会での討論を見て、これでは創造的な話合いにならないと痛感している。両者が、自分の主張が正しいと、相手を批判する。討論が平行線をたどり、多数決によって結論が出される。多数決は否定するわけではない。しかし、話合いの裏側での工作活動で決まってしまい、納得のいかないこともある。
多様な価値観が存在する今日、「正しい主張」を判断するのが難しくなってきている。FCでは、深刻な課題を話合うために、ファシリテーターによって対話の技術が用いられる。多角的な視点から、課題解決の目的に応じた話合いが設計される。
反対の立場の人にとって、討論で出た結論は押しつけられたものになる。しかし、対話から出てきたアイデアは、関係者自身で作り上げたものなので、実現に向けた協力体制が生まれやすいのである。
【柏で日本初の開催】
行政に関わるFCは、まだ日本にはない。そこで、日本初の試みとして、今年一月九日に柏のまちなかカレッジ主催でフューチャーセンターを開いた。日本で初めてフューチャーセンターを企業に導入した荒井恭一氏を招き、行政職員、まちづくりに関わる活動家などが約三十名集まり、それぞれの肩書きをはずした一市民として、よりよい柏に向けた対話が繰り広げられた。
柏まちなかカレッジで、引き続き、FCを開催していく。本場のFCのように、関係者に対して強制力のある運営組織ではないが、一つのモデルを示していきたい。施設を作ろうというものではない。集まって対話する場をコーディネートすることから始める。対話によって、複雑に絡み合った問題をほぐしていくきっかけ、大きな組織での部署を横断したプロジェクトが生まれるきっかけを。そんな前向きな場つくりを模索していきたい。
(山下 洋輔)