以下、『BE-COM 3月号 vol.233』 (2012.3.1 BE・COMときわ通信発行)に掲載より引用
デモクラシー(民主主義)3.0
【民主主義の転換点】
今、民主主義のあり方が、大きく変化しようとしている。フェイスブックやツイッターといったSNS(ソーシャルネットワークサービス)の力で、エジプトやリビアでは独裁政権が倒された。身近なところでも、地盤も、看板(知名度)も、カバン(資金)がなくても、当選する議員が生まれるようになった。
「デモクラシー3.0」というタイトルは、今、民主主義が第三の段階を迎えているとの思いから書いたものである。大正デモクラシーなど政治に参加する権利を求めた第一段階。資本主義VS社会主義といった二項対立の第二段階。そして、今、複雑で、多様化し、正解のない時代において、民主主義が三階目の転換点に直面している。
【直接民主制への動き】
興味深い事例を紹介しよう。スウェーデンのストックホルム県ヴァーレントゥーナの地方議会で、Demoex(デモクラシー・エクスペリメント)という政党が、インターネットを活用し、民主主義の実験的な取り組みを行っている。
一般的に、選挙などによって民意を代表する者が選ばれ、その代表者に市民の権力行使を信託される。つまり、自分たちの選んだ人に任せることになる。いわゆる、間接民主制だ。
しかし、このDemoex党は、議会で議決が必要とされる場合、ホームページで市民に投票してもらい、その結果をそのまま反映させる。この投票に参加できるのは、この自治体に住む16歳以上すべての人で、この政党に投票したかどうかは問わない。市民が直接的に政治運営に関われるような工夫がみられる。
また、この政党のホームページ上の議論には、世界中の人が参加することができる。議論のテーマごとにアドバイザーを選ぶなど、市民が政治に参加しやすいような仕組みを採っている。
【国内での動き】
「インターネットの話ではないか」と失望された方。もう少しだけ聞いてほしい。道具の問題ではないのだ。政治に対する姿勢が変化してきているのだ。
実際、国会では、国民不在のまま、党利党略で政治が進められているように感じられる。政治不信は、日本全体をおおい、無力感や閉塞感が広がっている。投票率が低いのも、そのあらわれである。
そんな中、橋下徹大阪市長が支持され、話題になっている。また、国民が直接、首相を選ぶ制度を作ろうという動きが出てきている。私たちの国のリーダーを選ぶ権利を、私たち国民が手に入れようという機運が高まってきた。
政府の側でも、国民が政治に参加するための試みが出てきた。鈴木寛・元文部科学大臣のもと、「熟議」といって、保護者、教員、地域住民等多くの当事者が集まり、「熟慮」と「議論」を重ねながら政策が形成された。
不平不満をぶつける場を用意して、市民のガス抜きをしようという、形式だけのタウンミーティングや対話集会は、もう、いらない。今、求められているのは、自分たちの意見が生かされていると実感できる仕組みである。
【柏からの発信】
身近な柏に目を移してみよう。日本全体の問題となると、ピンとこないかもしれない。しかし、この柏でも民主主義の新しい段階に進もうとしている、と感じる。誰でも参加でき、柏市をより良くするための話合いをする「柏まちづくり倶楽部」を、毎月、私は開いている。 そこで話し合われたアイデアを柏市に提示したり、改善に向けて働きかけたりしている。議会での一般質問にも反映させている。
自分の話した内容が社会に生かされているという実感は、無力感や閉塞感を吹き飛ばし、政治に参加しようという前向きな気持ちを引き出していると考える。
課題に直面している当事者や行政と、未来に責任のある市民が対話して、より良い社会を作っていく仕組みであるフューチャーセンターについて、議会で取り上げられ、行政で検討されているのは、日本で柏市だけである。
はるか遠いヨーロッパな話だけでも、インターネットの中だけの話ではない。現に、身近な柏からも、新しい民主主義が生まれている。小さな動きかもしれないが、この動きを察知し、みんなで大切に育てていきたい。
柏まちなかカレッジ学長 山下 洋輔