「だれもが健康で豊かな生活を楽しむための余暇活動の情報集約と容易にアクセスできる情報整備を民間主導で進めることで、無駄な公共投資に依存しないで人と地域が主体的な豊かな社会を構築して行く」ことを目的としたポータルサイト『余活net.com』に掲載して頂きました。
http://yokatsunet.com/article_detail.php?report_id=2&page=1
仕事偏重主義の現代社会人に『新しい学び』の機会を提供されています。
地域で活躍する活動家たちと、人が楽しみ、活き活きとし、同時に地域も活性化するそんな社会を一緒に作ろうと挑戦されています。
「柏のまちのトム・ソーヤ」柏まちなかカレッジ学長・山下洋輔さん
柏まちなかカレッジ学長の山下洋輔さんはこのように語る。
街をキャンパスとした市民大学は現在全国各地に急速に広まりつつある。千葉県柏市でまちをキャンパスにみたて身近な人が先生として教える市民大学が、今年四月に開校した柏まちなかカレッジである。
現在教育コンサルタントをしている山下さんは、早稲田大学大学院卒業後、私立高校の教員を経て、博士課程のために再び大学院に戻ることになった。
そこで以前から取り組みたかったことを実践する。研究者仲間を集めて、お互いの専門分野の研究を発表し合う勉強会を開催したのだ。歴史や心理学、数学など専門分野の異なる研究者同士でお互いの発表を聞きながら、学び合う場を作りたかったという。
「文系の大学院生は勉強が好きで大学院に進んだという真面目なタイプが多いのですが、就職に不利になるといった不安や負い目を抱えていて、悩んでいる人が多かった。その分野で最先端のことを学びながらも、アカデミックな世界では下っ端で基礎研究ばかり。アウトプットの場があれば、みんな救われるんじゃないかと」
案の定、自分の好きなこと、得意な分野の話をしていると、誰もが目をキラキラさせて一生懸命に語り、楽しそうだった。もちろん、聞き手側も専門分野以外の話を聞くことは刺激になり、自らの研究に役立てることもあった。こうした双方向の学びの場に山下さんは大きな可能性を感じ、大学院の研究者同士だけでなく、普通の市民にこうした場があれば楽しいだろうなと考えるようになったという。
山下さんは大学院の研究室からまちに飛び出して、市民に向けての講座を開きはじめた。
「僕は高校教師だった頃の経験を交えて、教育をテーマに話したのですが、そうした話よりも高校を卒業したばかりの僕の教え子が話す新聞配達のアルバイトや浪人生活の話の方が盛り上がるんですよ。普通の人が、自分の経験を語ることでこんなに盛り上がるのかと。こうした場を増やしていけば、もっと楽しいだろうなと思いました」
公民館でのインディーズ活動が認められたのか、山下さんは市が主催する市民活動講座に講師として招かれた。そこで以前から考えていた市民大学の構想を話すと、またたたく間に有志が集まり、柏まちなかカレッジの原型ができあがったという。
開校一年前、2009年春の話である。そして半年後の秋にはプレ講座がスタートした。
それから一年。開催された講座数は60を超え、受講者数も延べ700名を数える。
過去の講師陣はダンサーやカフェ店長、地元企業の社長に先輩花嫁など多種多様な顔ぶれ。先輩花嫁が語る「結婚式の理想と現実」などは、どんな話なのか確かに気になる。友達には聞けないようなことでも気軽に質問できそうだ。
普通の人といっても、それぞれ自分が何を伝えることができるのか分かっている人ばかりではないだろう。講師の確保は今後も取り組むテーマのひとつだという。
「実は最近、講師養成講座というものを始めました。これまでも講師をやってみたいと手を挙げてくれる人がいても、実現できずに話が流れることが度々ありました。打ち合わせや開催場所の確保など講座を開くまでの準備が大変なんです。スタッフ間の意識の共有も含めて、講師希望者と一緒に学んでいく場をつくることにしました」
そして、第1回講師養成講座から生まれたのが、司法修習生による「法律家の交渉術を体験」する講座だ。この講座は夜10時開始。都内で働くサラリーマンやOLにも参加してもらえるように、開始時間を遅めに設定した。お酒を飲みながら気軽に参加できるようにする場作りは、ずっと考えていたアイデアの一つだという。
山下さんが周囲を巻き込んでいける秘訣は何であろうか?
「トム・ソーヤのペンキ塗りの話をご存知ですか?トム・ソーヤが退屈なペンキ塗りの仕事を命じられたときの話です。トム・ソーヤが本来つまらない退屈なその仕事を口笛を吹きながら楽しそうにやるんです。それを見ていた友達が自分もやらせてほしいと頼んでくるのですが、トム・ソーヤはこんな楽しいことをやらせられないと断るんです。すると、どうしてもペンキ塗りをしたくなった友達はりんごなどをトム・ソーヤにあげて、ペンキ塗りをさせてもらうんです」
市民活動やボランティアというと敷居が高いが、「トム・ソーヤのペンキ塗り」のように、自らお金を払ってでも参加して楽しみたいと思ってもらうことが大事だと山下さんは言う。開校から半年が過ぎ、更なる工夫を重ねていく柏まちなかカレッジの話をしている山下さんはイタズラ好きのトム・ソーヤのように楽しそうだった。一番楽しんでいるのは、他でもない山下さん自身なのであろう。