以下、『BE-COM3月号 vol.245』 (2013.3.1 BE・COMときわ通信発行)に掲載より引用
【落ち着き、静かに話を聴く子どもたち】
オランダのハーグ市にある保育園を訪問した。日本でも実践されていることもあるとは思うが、見たことを紹介したい。私が見学したのは、ハーグ市内に約70か所の保育園を経営する民間の保育園であった。そこには、0歳から4歳までの子どもが預けられていた。※オランダでは、4歳の誕生日を迎え、5歳になるまでの間に、小学校に入学する。
私が、驚いたことは、子どもたちが、机にきれいに並んで、落ち着いて座っていることだった。そして、保育士の顔をじっと見つめ、話を聴いている。
【保育の工夫】
説明で、「自立心を育てる」という言葉を、よく耳にする。この自立心が、こどもたちの落ち着きの秘訣のようだ。保育の中の至る所に、この自立心を育てる工夫が盛り込まれている。
たとえば、教室の中に、一人きりになれるスペースが準備されている。みんなと楽しく遊ぶだけでなく、一人になって、考えたり、作業したりする時間が大切にされている。
他に気づいたことは、遊ぶ内容と遊ぶスペースを自分で決めること。遊ぶ時間になると、教室の図の書いたボードがあり、子どもたちは、自分がどこで、何をするかを表明していく。
3つ目は、子どもたちに、保育士が、一日の予定を示していること。その都度、指示を出すのではなく、図で示すなどして、子どもが自分で動けるような環境を整えている。毎日のことなので、子どもたちは、すぐに慣れてくるそうだ。保育士は、「ストラクチャー(構造)を与える」と説明していた。こういった毎日の細かい積み重ねが、表れてくるのだろう。
そして、何より、保育士が落ち着いている。大きな声で注意していないのはもちろん、元気に張り切った姿も見せない。
うつぶせか、仰向けか。その他、遊びは、子どもに任せている。ただ、「すべて自由がいい」と言っているわけではないと強調していた。大きくなればなるほど、他人の気持ちを尊重できるように指導しているとのこと。社会見学に出かけ、マナーや配慮も学ばせている。
【保育を自己評価し、公開】
移民の多い地域などもあり、地域ごとに教育プログラムは違う。ただ、この保育園は、3つの点を意識して保育を実践している。①環境と子ども-設備や建築。②保育士と子ども-保育士が子どもの発達を刺激しているか。③子どもと子ども-安定した子どもグループが形成されているか。
この3つについて、アムステルダム大学などの発達心理学の教授たちと指標を作り、評価している。内容は、保育園の実践として、発信している。これは、園の説明責任であるとのこと。また、大学などの教育機関も、研究結果の信頼につながると、保育現場へ積極的に協力している。
保育園と親は、日々の送り迎えのほかに、午後八時から開催される懇談会や保育園運営評議会で、話し合う。親との連絡帳は、今日では、インターネットでログインし、写真を使って報告されている。
【保育を取り巻く社会環境】
保育園では、机やおむつを替える台の高さなど、保育士の腰が痛くならないよう配慮がなされている。オランダでは、ワークシェアが採用されており、保育士は、毎日、勤務しない。産休する保育士もいる。園児も、毎日、通うわけではない。
待機児童数は、いない。人口40万人ほどの地域に、保育園・託児所が約400あるという。保育園に関しては、「0~2歳児9人に対し保育士2人」といった規則が決まっている。託児所の定義が違うと言っても、日本とは量の違いがある。
保育園の待機児童がいない別の理由に、経済不況があげられた。親が失業してしまっている。保育料を払えなくなってきている。保育料は、国から補助が出るが、親の所得によって変動するそうだ。国の財政悪化で、子育てにしわ寄せがきている。
それでも、子どもは社会で育てなればならないという国の姿勢がはっきりしている。核家族化し、共働き化し、移民も多く、複雑な社会である。この多様な社会を支えるため
柏まちなかカレッジ学長 山下 洋輔