以下、『BE-COM4月号 vol.269』 (2015.4.1 BE・COMときわ通信発行)に掲載より引用
地域を活性化させる公共事業
【地方創生の現場】
今、全国の自治体は、少子高齢化で人口が減少し、厳しい財政の中で、地域活性が求められている。公共施設の改修計画などを総合的に管理し、統廃合や複合施設化を検討しなければならない状況である。
そんな中、岩手県紫波町のオガールプロジェクトの取り組みは、全国から注目されている。民間のアイディアで、駅前の町有地に図書館、産直マルシェ、子育て支援施設、ホテルやバレーボール専用体育館、カフェなどが入居する施設を建て、町の中心部が賑わう仕組みと、そこから町全体に経済活動が波及する仕組みを作った。
補助金に頼らない公民連携で地域創生の事例として、小泉進次郎氏が訪れ、絶賛している。
私も2月17・18日に訪問し、オガールベース(株)代表の岡崎正信さんにお会いし、お聞きしたことを紹介したい。
【かっこいいライフスタイルのある街】
オガールプロジェクトは、岩手県紫波町の公民連携事業である。町の人口約3.4万人。盛岡駅から電車で20分に位置し、主な産業は農業。
地域活性化と言うが、事業を興して、稼ぐことなしに、真の活性は期待できない、と岡崎さんは力説された。外貨を稼ぎ、地域内で流通させる営農支援が必要である。
そのために取り組まれているのが、都市と農村の新しい結びつきを創造すること。食•住•遊のライフスタイルが混在し、かっこ良く、豊かで、魅力的に、持続的に発展する街を目指すものである。
緑豊かな景観だけでなく、夜の街のにぎわいなど、カッコ良い、生きた文化がある街が、人を引きつけている、とニューヨークのハイラインの事例が引き合いに出されて説明された。
【補助金ではなく、銀行から借りて建設】
オガールプロジェクトは、民間が公共事業を担っている。行政にお金がない。民間開発に切り替えた。補助金や税金ではなく、金融機関からお金を借りて、公共施設と民間施設両方の開発を進めた。
借り入れるためには、シビアにリスクを分析し、利益を追求した事業計画を作る必要に迫られた。黒字化し、10年で返済を完了するためには、様々な要素を連立方程式のように組み立て、逆算したという。
多くの自治体では、事業計画が甘いまま、施設が建設され、赤字をタレ流したり、利用されないままになっていたりしている。そのツケは、住民の税金で補填しているのだ。
オガールプロジェクトでは、受けられるサービスとコストをオープンにして話し合われた。必要なものにお金をかけ、不要なものはカットする。
たとえば、野球場。建設費と維持管理費、使用年数と利用件数を示し、1アウトあたりの費用を割り出す。ダルビッシュ投手(東北高校出身のメジャーリーガー)よりも割高だと指摘するといった感じである。
音楽室で実感した。オガールでは、手ぶらでもバンドの練習ができるよう備えられている。さらに、小さなスタジオだが、ミーティング用の小机があり、利用者に重宝されている。一方、秋田の施設では、2000万円のグランドピアノを買って、市民に安く使わせてくれるという。違うお金の使い方があったのではないか。
【「稼ぐ」公共施設を作る】
生きるために必要でない図書館などの施設。お金がないから、作らないと言っていると、住民が離れていく。まさに負の連鎖だ。 オガールプラザは、公共施設を「稼ぐ」施設にし、負の連鎖を断ち切った。
オガールプラザは、公共施設と塾や病院、カフェや居酒屋といった民間テナントが同居している。このことは、珍しいものではない。オガールプラザの注目すべき点は、図書館やスポーツ施設、子育て支援センター、役場などの公共施設が、消費活動を目的としない訪問者を増やし、施設の価値を高めたこと。訪問者が増えた時点で、テナントを募集。この施設にふさわしいテナントを選ぶことができた。
武雄市の図書館と比較されることがあるようだが、オガールプラザの図書館は正反対の仕組みと言える。つまり、行政がお金を払って指定管理者に運営してもらうのが武雄市の図書館。一方、オガールプラザの図書館は、民間企業であるオガールプラザと入居テナントが、紫波町に家賃や固定資産税などを逆に支払っている。行政からオガールプラザへは、委託料や補助金などは出ていない。
周囲には、環境に配慮した厳しい基準を設けた住宅地を開発。地元の木材を使い、地元の業者が建てる。エネルギーステーションで、間伐材を活用した木質バイオマスを燃やし、暖房の熱エネルギーを供給している。エコタウンとして、環境意識の高い住民を他地域から引き寄せている。
「敷地に価値なし、エリアに価値あり」という岡崎さんは表現された。オガールプラザによって、周辺の不動産価値が上昇した。
【地方創生とは】
開発というと、土地の容積を目一杯に活用し、高層のビルを建てることと考えがちである。しかし、これからの時代の開発は、低層高密度が基本となってくるであろう。たとえるならば、摩天楼よりも横丁なのだ。大きな道路を作り、高いビルを建てるのではなく、緑のある空間や歩いて楽しめるエリアが求められている。
人口が減少し、マンションの部屋も余る。歩行者も減る。綺麗だが寒々しい街は、魅力的ではない。あえて木造2階建てにしたほうが、価値が出ることもある。
地方創生とは、東京のような街を作ることではない。その土地の良さを引き出し、その土地ならではの街を作ることではないだろうか。
そのためには、教育の役割が期待される。建物や公民連携の仕組みの話を取り上げてきたが、結局は、人だ。冷徹な経済感覚と人を巻き込む情熱や魅力など、事業に不可欠な力を、地域の中から見出し、伸ばしていくことだ。自分たちで考え、行動できる人や風土を育むことが、地方創生につながると、私は考える。
柏まちなかカレッジ学長 山下 洋輔