以下、『BE-COM 11月号 vol.205』(2009.11.1 BE・COMときわ通信発行)に掲載より引用
私事で恐縮だが、今、仲間と共に「柏まちなかカレッジ」の企画・運営に携わっている。この「柏まちなかカレッジ」は、学びを通して人の輪を広げ、まちの活性化につなげたいとの思いでスタートした。
カレッジと言っても、校舎を建設するわけではない。柏のまち全体がキャンパスである。今あるものを活用し、今まで活動していた場所を利用することが、柏らしさを引き出すことになると考えている。立派な教授を招くのではなく、身近な地域の方々の活動にスポットを当てる。講師は体験を振り返る機会となり、受講生と共に学ぶ機会でもある。「人に話を聴いてもらえることは、権威的な賞や金銭を与えられる以上に、自分の体験が認められたと実感できた」と講師の一人は語った。
今、求められているのは、コンクリートや権威ではない。ハコモノに代表されるハードではなく、人間味あふれるソフトが求められているのだ。生活が便利になった反面、見落とされてきたのが、「人と人とのつながり」や「生きがい」といった精神的な充足ではないであろうか。この柏まちなかカレッジがきっかけで、受講生同士に同窓会のような仲間意識が芽生え、孤独なまちの住人から抜け出してもらいたい。さらに、自分の経験が認められる、自分のやりたいことがみつかるといった体験を味わってもらいたい。柏には、面白い人がいる。カッコいい空間がある。エネルギーがあふれている。これらを集めて、まちと人を元気にする仕組として、柏まちなかカレッジが機能することを願う。
今年4月の市民活動講座にて、この構想を発表する機会を得、そこに集まった市民活動関係者を巻き込んで始まった。この企画・運営には、高校教諭、サラリーマン、公務員、商店街の方、劇団員、市民活動家、大学生など、多様なメンバーが参加している。
お金や人が大きく動くイベントではない。広報活動も地味であった。しかし、学びを通した人間関係は、濃く、確実なものなのではないかと思う。講座依頼や企画を通して、各メンバーは講師と共に講座を作り上げてきた。チラシをお店などに置いて頂く際にも、店主やその場に居合わせた方々に説明をし、お店に定期的に通った。最初は小さくても、だんだんと人の輪が広まっていることを実感している。
第一回目の講座「民藝meetsモダン」は、カフェ・マで開かれた。民藝とは、日常的な暮らしの中で使われてきた手仕事の日用品の中に「用の美」を見出す考え方。「用の美」を追求する柳宗理やイームズのデザインに磯野講師(カフェ・マ店主)は民藝の精神を感じたのである。無名の人たちによる作品に光を当てた民藝。柏の一般の方々の考えや経験を講座にする柏まちカレ。まさに、「民藝meets柏まちカレ」とも言える記念すべき第一回目の講座であった。
先生が一方的にお話し、黒板を写すような講義ではない。実物に触れて感じる。先生と受講者、受講者同士で率直な議論が交わされた。受講生は、予備知識がなくても、理解が深まり、いつの間にか話し合いに参加している。様々な年齢、職業、異なるバックグラウンドの方が集まり、話し合いに花が咲いた。「自分のライフスタイルにも反映させたい内容で、世界が広がったと実感した」と受講生は感想を述べた。人と人との出会いに、複合的な美を感じることができた。
この準備の中で、柏のユニークな方々と知り合うことができた。まちを歩きながら面白そうな人を見かけると、声をかけるようになった。「講座やりませんか」とスカウトするためである。そのため、会ったばかりの方と夢を語り合ったりすることもある。街の活性化といった目的ではあるが、私自身、いい経験をさせてもらっている。
『トム・ソーヤの冒険』の作者であるマーク・トウェインは、お金をかけて馬車を走らせる遊びとお金をもらって馬車を走らせる仕事について指摘した。柏まちなかカレッジは、前者の遊びである。メンバーは、運営費を出資し、楽しんでいる。「社会起業」という言葉が流行し、市民活動にも継続して、自立した運営が求められるようになった。一般企業と変わらないように感じ、活動自体の楽しみが忘れられている気もする。柏まちなかカレッジが、ゆるやかな市民活動の実験であり、活動自体を楽しむ市民活動の希望でありたい。
(山下 洋輔)