吉田右子『オランダ公共図書館の挑戦』(新評論)を読んだ。
生きるための情報を獲得する公共図書館。
2012年、13年、14年と、私もいくつかオランダの図書館を訪問したが、その頃よりも大きく変化していることがわかる。
本書では、アムステルダム中央図書館のような大きな図書館だけでなく、地域の分館といった小さな図書館も詳しく紹介されている。
オランダの図書館は、読書センターから地域情報センターとして役割を移行させている。
地域情報の提供だけではなく、コミュニティの情報を介して、地域に暮らす人々を結びつけている。
図書館が、社会関係資本を形成する役割を担っている。
図書館は、あらゆる人にとっての居場所となっている。
情報アクセスに取り残された人々へのサービスとして、かつての識字教育や夜間学校のような活動のほかに、デジタルスキルが加えられている。
移民や電子政府化といったオランダの背景から、ますます期待される役割である。
認知症の人のための音楽サービス、気軽にアートに触れられる体験の提供、デジタル資料の提供などのサービスが紹介されている。
アムステルダム中央図書館では、「国際ゲイ•レズビアン•情報センターアーカイブ」があり、IHLIA広場と名付けられたスペースで、LGBTに関わる資料が閲覧でき、専門職員から高度な情報サービスを受けることができる。LGBT関係資料の展示会やイベントも開催される。
オランダや北欧の図書館では、コンピュータゲームで遊べる。コンピュータゲームもメディアとして認められ、図書館の資料となっている。ゲームを持っている子と持っていない子のメディア格差を埋めるためにも必要とのこと。
eスポーツイベントも開催されている。
ゲーム依存症や社会的孤立の課題についても、図書館は取り組んでいる。
社会的背景の違う人々が集まる図書館で議論し、他者の意見に耳を傾け、理解を深める。対話空間としての図書館だ。
政治家や市長と市民との対話集会を企画するなど、公論を形成する場としてのデモクラシーコーナーも備える。
健康的なライフスタイル全般に関わる情報発信する図書館の地域健康プロジェクトも紹介されている。
ファブラボのようなメーカーズスペースが設置され、図書館でモノづくりが行われている。
パン屋や工場、病院など、古い建物をリノヴェーションして図書館を設置している。図書館の建物自体が過去の記憶を記録している。
チョコレートをリノヴェーションしたゴーダ公共図書館には行ってみたい。カフェと印刷所、文書館も兼ね備えた図書館だ。
中央図書館と分館のネットワークは、柏市の図書館体制を考える上で、参考にしたい。
一つとして同じ地域がないように、一つとして同じ図書館はない。
図書館・分館は、それぞれの地域の個性を反映している。
「オランダの図書館は有料」
本書の一番、注目される点であろう。
アメリカで誕生した近代公共図書館は、「無料」、「公開性」、「自治体の直接運営」の理念を基盤としている。
指定管理者制度によって「自治体の直接運営」の基盤が揺らいでいる中、「無料」までをも揺るがす新自由主義や「新しい公共経営」の本かと思ったが、筆者の真意は違うようだ。
社会的公正や社会的包摂が強調され、すべての人々が情報と文化にアクセスできるよう真摯にサービスが提供されていることが記されている。
もともとオランダでは、教会が設置した会員制の図書館として誕生し、発展してきた歴史があるという。
そうは言っても、どの図書館でも、自治体による予算削減による厳しい財政が課題となってるのが現状である。
2014年に成立した「公共図書館サービス法」は図書館の機能として、知識を通した個人の成長や図書館を通した人と人とのコミュニケーションをあげている。
アムステルダム中央図書館の方針「アムステルダムのすべての人とともに」では、より意欲的な方針が示されている。
図書館は、メディアの変化に合わせて進化してきた。
電子書籍、3Dプリンターを備えたメーカーズスペース、人と人とをつなぐコミュニティプロジェクト。
しかし一方で、利用する市民は、本を借り、読む場所としての図書館を求めている。
インターネット普及により、「読む」という行為が変化した今日、あらためて自分と対話しながら「読む」という時間と場所、機会を提供することが、図書館には期待されているのかもしれない。
旧館から新館に本を手渡しで運ぶ写真が印象に残っている。