国の文化審議会(会長 佐藤 信 )は、令和5年7月21日(金)に開催された 同審議会文化財分科会の審議・議決を経て、文部科学大臣に対し、「長板中形 (ながいたちゅうがた) 」を、 重要無形文化財に指定し、君津市在住の松原 伸生 氏を保持者として認定するよう 答申しました。
今回の答申後に指定されると、千葉県内の重要無形文化財の件数は1 件となります。 また、千葉県内の重要無形文化財の指定は、平成15年の解除以来20年ぶりとな ります。
【重要無形文化財の概要】
○名称:長板 中 形 (ながいたちゅうがた)
長板中 形 は、型染 ぞめ の一種で、型紙 かたがみ を用いた伝統的な染 色技法である。 長さ約三間半の樅の張板に生地を張り、模様が彫られた型紙を送り繋いで、箆を用 いて防染糊を生地に置いていく。糊を乾かした後、更に裏面からも同様に、表面の模様 に合わせて型付をし、これを本藍の染め液に浸して染め上げる。
中 形とは、文様が小紋より大きく大紋より小さいことに由来する。中形の型紙は絵画 的な図柄に適し、多くは浴衣染に用いられたことから、江戸時代中期以降、中 形染 は木 綿の普及とともに浴衣染の技法として定着したと考えられている。型紙の文様に合わせ て、防染糊の加減や箆の動かし方を工夫することで、染め残された生地の白と藍との対 比によって、簡素な美しさや清涼感を生み出すところに、高い芸術的感覚と優れた技術 が要求される。
以上のように、長板中形は、芸術上価値が高く、また工芸史上重要な地位を占める技 法である。
【保持者の認定】
①保持者
氏 名:松原 伸生
生年月日:昭和40年6月14日(満58歳)
住 所:千葉県君津市
②保持者の特徴
同人は、伝統的な長板中形の技法を高度に体得し、卓越した技量を持つ染色作家 として活躍している。同人は、長板中形の多様な染色工程を一貫して一人で行い、 また、各工程において丁寧な作業を重ねることで、生地や型紙の選択を自在とし、 型紙の良さを生かした独自の長板中形の世界を構築した。また、同人は、後進の指 導・育成にも尽力している。
③保持者の概要
同人は、東京都江戸川区に染色作家・松原利男の長男として生まれた。昭和59 年、東京都立工芸高等学校デザイン科を卒業後、一家が工房を千葉県君津市へと移す と、同人も父に師事しながら、伝統的な長板中形の染色技法を修得した。 長板中形は、箆で型紙を通して防染糊を生地に置く型付と、本藍での染色との分 業により発展してきたが、同人の祖父・松原 定吉 (昭和30年重要無形文化財「長板 中形」(各個認定)保持者)は両者を統合して一貫した制作として取り組み、父・ 利男、そして同人もその志を受け継いだ。同人は、作業時の天候や文様に合わせた 糊作り、文様のずれなく型紙を送る型付に加え、染色前に豆 ご 汁 じる を生地に刷毛で引く 地入 (呉入 )や、藍 建 だ てからさらに藍染 に至るまで、多様な染色工程を一人で こなし、技の錬磨と向上に努め、伝統的な長板中形の技法を高度に体得した。 同人の作品では、木綿だけでなく、麻や絹も素材として用いている。また、伝統 的な長板中形の技法を土台に、小紋染にも通じる精緻な図柄を取り入れるところを特徴とする。そのため、染色前の生地の下 拵 したごしら えや、本藍 ほんあい の染め液に入れる時間や回 数の調整など、丁寧な作業を重ねることで、生地の特性を生かした型紙の選択が可 能となり、型紙の良さを忠実に表現しつつ、本藍の深淵な色彩が冴える清新な作風 を確立し、同人独自の長板中形の世界を構築した。 同人は日本伝統工芸展を中心に作品を発表しており、平成26年の第61回展に おいて高松宮記念賞(優秀賞)を、令和2年、第67回展では日本工芸会保持者賞 (優秀賞)を受賞している。さらに、平成30年に第38回伝統文化ポーラ賞優秀 賞を受賞するなど、多方面から高い評価を得ており、令和3年には紫綬褒章を受章 した。 また、同人は平成26年から公益社団法人日本工芸会の監事を、令和2年以降は 理事を務めるなど同会の要職に就き、また、同年、第67回日本伝統工芸展におい て鑑査委員を務めるなど、後進の指導・育成にも尽力している。 以上のような活動が評価され、同人は、平成29年に千葉県指定無形文化財「長 板中形」保持者として認定を受け、現在も自らの工房で後進育成を行ったり、型染 や長板中形を主題とする展示や調査に協力したりするなど、その活動は多岐にわた っている。 以上のように、同人は、長板中形の制作技法を高度に正しく体得しており、かつ、 これに精通している。
④保持者の略歴
昭和59年 東京都立工芸高等学校デザイン科卒業 同 年 父・松原利男に師事(平成17年まで) 同 62年 第34回日本伝統工芸展初入選
平成 3年 社団法人日本工芸会(現 公益社団法人日本工芸会)正会員(現在に至る)
同 17年 父の跡を継ぎ、「藍形染まつばら」を主宰(現在に至る)
同 21年 第56回日本伝統工芸展日本工芸会新人賞 作品「長板中形着尺 「斜め菊花 文 」」
同 26年 公益社団法人日本工芸会監事(令和2年まで)
同 年 第61回日本伝統工芸展高松宮記念賞(優秀賞) 作品「長板中形着尺 「 漣 文 」」
同 29年 千葉県指定無形文化財「長板中形」保持者(現在に至る)
同 30年 第38回伝統文化ポーラ賞優秀賞 令和 2年 公益社団法人日本工芸会理事(現在に至る)
同 年 第67回日本伝統工芸展鑑査委員
同 年 第67回日本伝統工芸展日本工芸会保持者賞(優秀賞) 作品「長板中 形麻地着尺「蒲縞萩文 」」
同 3年 紫綬褒章
備考 同分野の既認定者
(死亡解除)
松原定吉(昭和30年2月15日指定・認定~同30年12月30日認定解除)
清水 幸太郎 (昭和30年2月15日指定・認定~同63年11月15日指定・認定解除)