後半もお読みいただきありがとうございます。宮島凱生です。
前回、昨今話題のポピュリズムについてお話させていただきました。ポピュリズムとは
①「民衆への直接的な主張」
②「エリート、既存社会批判」
③「カリスマ的リーダーの存在」
を有する政治思想です。
そんなポピュリズムへの批判として、しばしば「ポピュリズムは独裁制のはじまりである」「ポピュリズムは民主主義の破壊者である」といった言説があります。
みなさんも一度は耳にしたことがあるのではないでしょうか。
しかし、世界的にポピュリズムとされる政党はむしろ本質的に徹底した民主主義であると言えます。ポピュリズムは現代の代議政治の代議=一部の政治エリートという構図を批判し、直接民主制の導入などを訴えると同時に自らを「民主主義の守り手」と称しました。
○民主主義の解釈
一方では民主主義の破壊者、もう一方では民主主義の守り手。なぜこのような矛盾する主張が存在するのでしょうか。
それは民主主義をどう解釈するのかという2つの考え方が存在するからです。
民主主義の2つの解釈とは、「立憲主義的解釈」と「ポピュリズム的解釈」とされています。
1つ目の立憲主義的解釈とは、法の支配を前提として個人自由主義、議会制を通じて権力抑制を重視する立場です。つまり「いくら民衆におかしいと言われても憲法や法律に従うよ」という立場です。
最近で言えば池袋で起きた自動車事故が良い例と言えます。被告に厳罰化を求める署名が集まりました。その際被告の量刑を定めるのは法律であり、署名などの民意は司法に介入できないしするべきではないという批判が集まりました。この「司法は民意より上だ」という批判こそ立憲主義的解釈です。
要するに民衆の感情や考え、権力者の考えよりも上位に位置するものが法律であり、それは守らなければいけないよね。という考え方です。現代日本はこの立場と言っていいでしょう。
2つ目のポピュリズム的解釈とは、民衆の意思の実現を重視する考え方です。そもそも民主主義とは、多数派の人々の意思を実現させる政治方法なので、民意が最上位に位置するという考え方です。
政治理論研究者の山本圭は1つ目の立憲主義的解釈に則り自由主義の伝統を擁護する者はポピュリズムに警戒的であり、民主主義の伝統を擁護する者はポピュリズムに「真の」民主主義を見出すだろう。としています。
ポピュリズムを認めるかどうかというのは一種の自由主義vs民主主義という見方もできるということです。
○ポピュリズムは民主主義の敵か味方か
では、そんなポピュリズムは民主主義を発展させていくことはできるのでしょうか。ポピュリズムを研究するカス・ミュデとクリストバル・カルトワッセルは、ポピュリズムは民主主義の発展に寄与する事もあれば、脅威となることもあると論じています。
○ポピュリズムが民主主義を進化させる可能性
ポピュリズムが民主主義の発展を促進する理由は3つあります。
第一の理由に、ポピュリズムは政治から排除されきてきた一種の周縁的な集団の政治参加を促す事ができることがあります。
日本の例で言えば、れいわ新選組による難病であるALS患者の国政参加がそうでしょう。いままで政治から半ば除外されてきた難病患者を国政に参加させることでより民主的な政治を可能にさせることができます。エリートによってないがしろにされていると感じる人々に政治参加の機会を提供できるのはポピュリズムの利点と言えます。
第二に、ポピュリズムは既存の社会的なまとまりを超えた新たな集団を組織することができる点があげられます。これは日本では少々分かりづらいですが、「労働者」や「農民」、「資本家」などの社会身分の区別を超えて「国民」や「人民」といった集合体を生み出すことで政党システムに革新をもたらすことができるとされます。
第三に、ポピュリズムでは政治が重視されるため、経済や司法の手にある重要な問題を政治の場に引き出すことで人々に責任をもった議論を促し、世論や社会運動の活性化につながることが挙げられます。
つまり、皆が政治に直接参加するようになれば無責任なことは言えなくなるから皆物事をしっかり考えることになるね!ということです。
○ポピュリズムが民主主義を破壊する可能性
では、ポピュリズムが民主主義の発展を阻害することとは何でしょうか。その理由も3つあげられます。
第一に、ポピュリズムでは人民の意思を尊重する一方、立憲主義の原則を軽視する傾向があることです。これは先に挙げた自由主義と民主主義の対立という話と同じことで、立憲主義においての手続きや制度は、人民の意志の実現を阻害するものとして批判されます。
最近の話題で言えば、内閣は国会の承認を得なければ予算を使えないという原則を経ずに、国民の生命のためとして予備費から10兆円用いると閣議決定されたことに関する議論に似ています。民意を優先して制度を無視することは多数派原則を重視するあまり、弱者やマイノリティの権利が無視される危険性をはらんでいます。
第二に、ポピュリズムには敵と味方を峻別する発想が強いことから、政治的な対立や紛争が激化する危険性があることが挙げられます。民衆の意思に反する意見は「敵」とみなされ攻撃されることが常態化すると、政治的対立の中で妥協や合意が困難になる危険性があります。
つまり、歴史上古今東西で行われてきた「大多数の集団」による「小数の人々」への弾圧が起こりやすくなる、ということです。
第三に、ポピュリズムは人民の意思の発露の場として投票によって問題を一挙に解決しようという考えが強いため、長期的な問題の解決能力を持つ政党や議会といった団体、制度や非政治的な機関、司法機関などの権限を制約する傾向が強い事が挙げられている。つまり目の前の問題をその時々の民意によって解決しようとするため、長期的な考え方が困難になる可能性があるわけです。
さて、ここまでポピュリズムについてお話してきましたが、いかがだったでしょうか。軽くまとめてみましょう。
ポピュリズムとは、有権者に直接語りかけ、既存の社会やエリート階級を批判し、カリスマ的なリーダーをもつ政治思想です。
また、ポピュリズムは民主主義を重視するあまり自由主義と対立する関係にあります。
ポピュリズムは人々の政治参加を促し、社会に革新性をもたらす一方で司法などの独立を阻害し、多数派による少数派弾圧を促進する危険性をはらんでいます。
さて、ポピュリズムについての基本的な紹介は以上です。これ以降は皆さんご自身で調べていただければと思います。
前回、政治家のネット活用についてお話しましたが、SNSの発達に伴ってポピュリズムが発達する土壌が完成しつつあります。イタリアの五つ星運動や米トランプ政権、日本のれいわ新選組はそのネット活用にも注目が集まりました。
ポピュリズムを支持する、支持しないに関わらずこの時代の流れを注視する必要がありそうです。
(文責・宮島 凱生)