以下、『BE-COM9月号 vol.263』 (2014.9.1 BE・COMときわ通信発行)に掲載より引用
【映画の内容】
「教育とは未来を切り拓くパスポートである」、そんな教育の力を再確認させられる映画に出会った。地球上の異なる4つの地域で、数10キロの危険な道のりを通学し、学校で学ぼうとする子どもたちの姿を追ったドキュメンタリー映画である。
ケニアの15キロメートルのサバンナを命がけで駆け抜けるジャクソン。360度見渡す限り誰もいないパタゴニア平原を、妹と一緒に馬に乗って通学するカルロス。モロッコの険しいアトラス山脈を越え、友だち3人と寄宿舎を目指すザヒラ。幼い弟たちに車椅子を押されながら、舗装されていない道を学校に向かうインドのサミュエル。この4人に密着。
「なぜ、毎朝命がけで、学校に通うのだろうか?」子どもたちの学習に対する意欲の高さや、そんな子どもたちを支える家族の愛情を映し出していく。
【バリアフリー上映会】
「バリアフリー上映会」とは、映画を鑑賞する上で様々な困難をかかえた人たちと、共に映画を楽しむことができるよう環境を整える上映会のことである。最も映画鑑賞が困難とされる目の不自由な方々も、音声ガイドナレーション(副音声)で、セリフの合間に場面の視覚的情報を聴き、映像を想像しながら楽しむことができる。
副音声は、FMラジオを使って聴くので、他のお客さんは通常通り。無声映画の活動弁士がスクリーンの脇に立ち、情景や人物の解説などの音声ガイドを演じられることもある。
このバリアフリーでの映画観賞は視覚障害者だけではなく、高齢化が進む社会において、視力や聴力が衰えていく方にとっても、新たな観賞の方法として様々な方に広く伝えていきたいと活動中である。白杖を携えて柏にこられる方々、それを支えていただくボランティアの方々、健常者と障害者が一緒になり、同じ空間で笑ったり、泣いたりして映画を楽しめるよう、広めていきたいと活動されている。
【教育課題と本作品】
この作品の舞台は、教育環境が整っていない発展途上国である。4人の子どもを通して、女子教育の問題、身体的な障がい、貧困といったテーマも描かれている。これらのテーマは、発展途上国のみならず日本でも課題となっている。親の教育格差や障がいにより貧困が連鎖しているという実態がある。
課題が山積みの中、このバリアフリー上映会は、希望の灯である。視覚障がいを持った方々が、自分たちの手で映画を鑑賞する機会を作っていく。この映画の子どもたちが、困難を乗り越えていく姿と重なる。
この映画が製作されたフランスでは、学校週4日制から週4日半制に移行する学校制度改革で、学校現場が混乱し、論争が巻き起こっていた。親は迎えに行くのが難しい、学校・行政は課外活動の充実を求められても予算がないと改革を反対する。通勤日数が増えてしまうと不満をもらす教員まで出てくる。そんな時期に、この映画はヒットした。自分の将来のために、長く危険な道を通い、勉強に励む子どもたちの姿に、忘れていた大切なものに気づかされたのではないだろうか。
フランスの子どもたちにも、強い影響を与えた。フランスでは、親かベビーシッターが、手をつないで学校の送り迎えをする。この映画を観て、「もう手をつながずに歩きたい」という子どもがいたそうだ。
【危険にさらされている通学路】
『世界の果ての通学路』に出てくる国では、通学中、武装ギャングに誘拐されたり、年に4、5人が象に襲われたりする危険にさらされている。
日本でも、京都府亀山市、千葉県館山市、愛知県岡崎市などで、通学中の児童を巻き込む痛ましい事故が起こっている。
柏市内では、自動車の交通量が多く、歩道も車道も狭く、ガードレールのない通学路がある。伸びた草木枝や落葉・ごみでふさがれ、児童が車のすぐ脇を歩かなければならない歩道もある。中には、見通しの悪いカーブや制限速度が守られずに子どもたちのすぐ脇をトラックが通り過ぎていくような通学路がある。抜け道として利用され、朝の通学時間帯に自動車が飛ばして走っている通学路がある。
保護者、教員が、通学路に立ち、安全指導が行われてはいる。その負担もさることながら、いつ事故が起きるかもしれないという不安は大きなものである。大切な子どもの安全な通学路の確保は、最優先の課題であると考える。
通学路は、学校や家庭では学ぶことができない、子どもの社会性を成長させる貴重な場でもある。家と学校の移動だけではなく、家と地域、地域と学校とを結ぶ活動の場でもある。子どもが成長できる通学路を整えていくことも大人の役割だと思う。
柏まちなかカレッジ学長 山下 洋輔