レッジョ•エミリア市での教育実践

いま企画している教育プログラム開発のために、レッジョ•エミリアの教育実践を読み返している。
何度読んでも、その都度、新たな発見がある。ワタリウムで企画展が開催され、三年。日本の状況も変わってきた。社会で支える教育という点でも、示唆に富む。
レッジョ•エミリアの教育は、ある教育者一人の実験的な試みではなく、レッジョ•エミリア市の公教育として実現している。

市内のすべての子どもに、素晴らしい幼児教育を行き渡らせたレッジョエミリア市の事例
市内のすべての子どもに、素晴らしい幼児教育を行き渡らせたレッジョエミリア市の事例

※2011年10月に書いた文章「教育は未来への堅実な投資」
以下、『BE-COM 10月号 vol.228』 (2011.10.1 BE・COMときわ通信発行)に掲載より引用
教育は未来への堅実な投資
【待機児童ゼロの次に】
市議会で多く質問されるテーマの一つが、待機児童解消についてである。すぐに解決しなければならない課題である。ただ、「待機児童ゼロ」といった量的な表現が多いのが気になった。「待機児童ゼロ」が目的となってしまっているのではないだろうか。親が働いている間、子どもを預かってもらえる施設があればいい。そういう消極的な考えではなく、子どもの未来や将来の社会のための幼児教育について提案することが、早期解決につながるのではないかと、私は考える。
そこで、今年の四月末から七月末にワタリウム美術館で開かれた「驚くべき学びの世界展」から、世界で注目を集めているレッジョ・エミリア市の幼児教育を紹介しよう。

【レッジョ・エミリア市の幼児教育】
まず、レッジョ・エミリアの幼児教育の特徴を見ていきたい。一つは、芸術と教育の融合。大学で芸術を専攻した芸術家と教育学を専攻した教師の二人を一クラスに配置している。二つ目は、学びの空間構成。建物の中心に「広場」を設け、教室、アトリエ、食堂をつないでいる。「アトリエ」には、絵具や砂、木の実、ねじ、ガラス玉など百をこえる素材が、分類・整理されて準備されている。さらに、各教室にも二つの小アトリエが設けられ、暗い部屋と明るい部屋になっていて、光と影が教育のテーマの一つとなっている。
三つ目は、観察記録。教科ではなく、「プロジェト」と呼ばれる小グループでの活動で、プログラムが組み立てられている。その子どもの日々の学びの活動が、教師たちによって細かく記録されている。この観察記録は、子どもの発達を研究する手段だけではなく、教師同士、教師と親、子ども同士をつなぐ絆になっている。四つ目は、親と市民の役割。観察記録をもとに、親と教師が学び合う月例会が開かれている。また、数ヶ月に一度、親と市民が一同に集まり、話し合う学習会で、幼児教育の基本方針が決定されている。五つ目に、地元企業からの支援。最後に、教育者、教育学者、芸術家たちの国際的なネットワークを形成し、その教育実践を発信している。

【その背景】
レッジョ・エミリア市は、北イタリアの人口14万人ほどの小都市である。明治時代に、東京美術学校に招かれ、日本に洋画を伝えたフォンタネージの故郷でもある。市立美術館には、彼が描いた東京の風景画もおさめられ、日本の芸術ともつながりがある。歴史的に見ると、レジスタンス運動が激しく闘われた場所であり、社会的弱者や子どもたちに対する連帯意識が強い伝統がある。十八世紀末に、統一・友愛・自由への願いを込めた三色のイタリア国旗が生まれた場所であり、その時の建物が、現在、市庁舎として使われている。
レッジョ・エミリアの教育は、第二次世界大戦が終わり、ファシストによる独裁から解放され、これまでとは違う学びの場を求める父母の強い意志から始まった。ナチスの残していった戦車と軍用トラックをスクラップにして売り、「自分たちの学校」として幼稚園・保育園を作った。このレッジョ・エミリアの教育を提案し、指導していったのが、当時、若き教師だったローリス・マラグッツィである。

【教育思想家の実践】
このローリス・マラグッツィは、レッジョ・エミリア市の教育主事として五十年間、幼児教育の指導を行った教育思想家であり、実践者である。彼は、デューイ、ピアジェ、ヴィゴツキー、フレネ、ブルーナー、フレイレなど、二十世紀最先端の教育理論と発達理論を研究し、よい部分をバランスよく組み立て、地域にあった形で活かしていった。
彼は、他者の能力を引き出すことや他者の話を聴くこと、計画を練ること、システムを刷新することに、長けていたと言われている。
レッジョ・エミリア市では、レジスタンス運動から協同組合運動や女性運動などの社会運動が起こっている。それらの運動を利用しつつ、マラグッツィは独自の教育理論を実現させていった。
アートを中心に据え、子どもの学ぶ権利を実現する創造性あふれる教育実践は、一九九一年に「世界で最も優れた教育」と『ニューズウィーク』誌で絶賛されることになる。

【地域を創る教育実践】
教育実践には、社会的運営と参加が大切である。学校内だけではなく、親や地域・社会をどう巻き込むか。他者への心遣いが、新たな心遣いを生む。公共のスペースに対する心遣いが、地域社会への参加へとつながる。
成功している教育実践は、地域コミュニティを築き、豊かな地域社会を実現させている。教育制度の改革が地方主権を推し進める、と言われるのはそのためである。
教育は、社会や人々の未来にとって、堅実な投資である。「子どもをめぐる政策が、子どもをめぐる政策だけにとどまることは決してなく、人々の現在の生活の質、未来の生活の質、そして未来の可能性と密接にかかわるものである」、と現レッジョ・エミリア市幼児教育局主事は語っている。
柏まちなかカレッジ学長 山下 洋輔

投稿者:

山下 洋輔

千葉県議会議員(柏市選出)。 元高校教諭。理想の学校を設立したいと大学院に進学。教員経験、教育学研究や地域活動から、教育は、学校だけの課題ではなく、家庭・地域・社会と学校が支え合うべきものと考え、「教育のまち」を目指し活動。著書『地域の力を引き出す学びの方程式』 2011年から柏市議会議員を3期10年を経て、柏市長選に挑戦(43,834票)。落選後の2年間、シリコンバレーのベンチャー企業Fractaの政策企画部長として公民連携によってAIで水道管を救う仕事を経験。 柏まちなかカレッジ学長/(社)305Basketball監事。 千葉県立東葛飾高校卒業。早稲田大学教育学部卒。 早稲田大学大学院教育学研究科修士課程修了後、土浦日大高校にて高校教諭。早稲田大学教育学研究科後期博士課程単位取得後退学。 家族 妻、長男(2014年生まれ)、長女(2017年生まれ)